じとじととした暑い季節になったら、あっさりとして、冷たいおばんざいがおいしい。味のよい豆腐が身近で安く手に入る京都では、白和えが最適である。白和えといえば、豆腐、白ごま、調味料をすり混ぜ、そこに好みの具を和える、というのが一般的であるが、歯ざわりや具の組み合わせ次第で、いろんな味わいが楽しめる。

 まず、豆腐は水気をよくきっておく。具はお多福豆、エンドウ、こんにゃく、椎茸などで、色付けにはにんじんがよい。お多福豆とエンドウは塩ゆでに、こんにゃくと椎茸などは短冊状に切ってうす味で炊いておく。下ごしらえが済んだら、溶いたからしを擂り鉢でよくすり、そのうえに豆腐を入れてすり合わせる。調味料は砂糖少々、塩ひとつまみ。味を調えながら、好みで淡口醤油を加えてもよい。そこに、さきほど下ごしらえした具を和えればできあがり。からしがどこからともなくぴりっと効いて、夏には白ごまを混ぜたものよりも食べやすいように感じられる。

 リンゴや柿が手に入る季節ならば、それらを加えると、味に深みが増す。リンゴなら、なるべく酸味の強いもののほうがキリッとした後味が加わり、さくさくした歯ごたえもまたよい。


こんにゃく、小松菜、にんじんの白和え。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 日本のアパレルメーカー。吉原信之氏が1942(昭和17)年に創業。社名の由来は「三井」「三菱」など有力財閥の「三」と、吉原の父の「陽」に因んでつけられたといわれる。1946年からレインコートの製造販売を開始。

 1953年にはダスターコートを発売。1959年にはフランスの人気女優ジャクリーヌ・ササールが着ていたコートを「ササールコート」と命名して売り出し大ヒットしたことで、レインコートの製造販売から総合アパレルメーカーへと成長を遂げた。

 この名門会社が創業以来最大の試練を迎えていると『週刊現代』(6/14号、以下『現代』)が報じている。1965年から輸入販売を始めた英国の高級ブランド「バーバリー」との契約が2015年6月で終了するというのである。「三陽商会」は知らなくても「バーバリー」の名は広く知られている。同社が発表したところによると、若者向けの派生ブランド「バーバリー・ブラックレーベル」「バーバーリー・ブルーレーベル」のライセンス契約は継続しマイクロチェック柄は使用できるが、「バーバリー」の名称は外さなくてはいけないという。

 大手アパレル幹部によれば「年間売上1000億円のうち、最悪500億円が吹き飛ぶ可能性がある」というのだ。

 日本でも事業の直営化を進めたい「バーバリー」側が一方的に契約打ち切りを宣告した形だが、こういう「裏切りの契約」はこれまでにもあったと『現代』は書いている。

 たとえば、スポーツ用品大手の「デサント」が98年に独「アディダス」から一方的に契約解消を突きつけられたことがある。

 「当時のデサントは売上高約1000億円のうち400億円ほどをアディダス事業で稼いでいたため、業績は急降下。社員の約3割にあたる希望退職者を募集したが、アディダス以外の事業の育成を怠ってきたため赤字が止まらず、『あと3年で倒産する』という危機にまで陥ったのだ」(大手証券会社日本株担当アナリスト)

 どうにか倒産危機は乗り切ったものの、デサントが提携前の業績水準まで回復できたのは約15年後の今年になってからだった。

 97年には「鐘紡」が仏クリスチャン・ディオールとの契約を解消され、約700億円あった売上のうち300億円を失ってしまった。

 「三陽商会」現役社員は、契約打ち切りがわかっていたのに本気で対策を打ってこなかった経営陣を批判し、「この会社に未来はない。私もバーバリーみたいに会社から逃げ出すつもりです」と憤る。

 だが経営陣は「責任をとらされると思って、『リストラをするつもりはない』」といっているそうだ。ではどうやってこの苦境を乗り越えようと考えているのか。

 同社が発表した「中期5カ年経営計画」にはこうある。「バーバリー・ロンドン」の後継として英の老舗ブランド「マッキントッシュ」社と契約。現在の「ポール・スチュアート」事業と、オリジナルブランドの「エポカ」事業との3事業を拡大していく。ブラック、ブルーレーベルはeコマースの新規展開で事業を拡大する。

 胸算用では2018年度には現在と同じ売上高まで“力強く”回復するつもりだという。

 だがこの発表の翌日「三菱UFJモルガン・スタンレー証券」が「さようならバーバリー」というレポートを発表し、楽観的で未達になる可能性が高いと酷評したのだ。

 3ブランド合計で250億円程度。ブルー、ブラックレーベルもおのおの30億円程度の減収は不可避。よって3期連続の営業赤字になるとして、目標株価を320円から185円にまで引き下げてしまったのだ。

 私と三陽とのつき合いは長い。大学時代の親友が入社していたことから、東京・四谷の本社にはよく遊びに行ったものだ。彼から「買ってくれ」といわれた三陽バーバリーのトレンチコートが私の冬の定番スタイルになった。襟を立て、食事をするときも酒を飲むときもトレンチを着たままだから、あちこちにシミが付き、刑事コロンボよりもひどく汚い格好だった。

 好いていた女に「野良犬のようだ」といわれたこともある。だが、どんなに汚れても愛着があり捨てられなかった。私の週刊誌編集者時代のほとんどはこのコートとともにあったといってもいい。

 私にとって青春時代からの思い出の染みついた会社だから、何とかこの危機を乗り切ってほしいと思うのだが。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 ついにW杯が開幕した。日本代表は6月15日(日本時間)のコートジボワール戦から出陣だが、第1次を突破できるかどうか。そこで今週はサッカーにまつわる記事を3本選んでみた。

第1位 「W 杯目前に緊急手術発覚!本田圭佑 本誌が報じていた『深刻な病名』」(『週刊文春』6/12号)
第2位 「『実は1次リーグで敗退濃厚』のブルーな現実」(『週刊新潮』6/12号)
第3位 「W杯『SEX得点王』は誰だ」(『週刊ポスト』6/20号)

 第3位。『ポスト』によれば、レアル・マドリードの絶対的エース、クリスチアーノ・ロナウド(29)は女性のほうでも絶対王者だというが、おもしろいのはコンドームメーカー・デュレックス社が発表している「セックス頻度国別ランキング」だ。日本が予選で当たるギリシャが06年は1位に輝いた。だが財政難の影響か11年には11位に後退。しかし、その11年ランキングで堂々1位になったのがやはり予選で当たるコロンビアだというのだ。日本が戦う相手は「強豪」ならぬ「性豪」揃い。さてどうする?

 第2位。『新潮』は日本代表のメディアでの前評判はいいが「実は一次リーグで敗退濃厚」だとお祭り騒ぎに冷水を浴びせている。

 「5月8日に発表された最新のFIFAランキングによれば、日本は47位。これに対し、1次リーグ対戦相手の3カ国はそれぞれ、コートジボワール21位、ギリシャ10位、コロンビア5位と、すべて“格上”だ。それどころか出場32カ国中、日本は豪州、韓国、カメルーンに次いで4番目に低い序列にあるのだ」(『新潮』)

 スポーツ誌サッカー担当記者がこう解説する。
 「FIFAランキングの算出法は99年、それまでの試合を重ねると順位が上がっていくシステムが改正され、06年には地域間の不公平も是正されたことで、より実力に近い順位が出されるようになりました。“3連勝で1位通過”といった報道もありますが、普通に考えれば3連敗しても不思議ではなく、日本が一次リーグを突破するだけでも驚きといえるのです」

 そう甘くはないことは確かであろう。

 1位は『文春』の記事。6月2日発売の日刊スポーツがサッカー日本代表の本田圭祐(27)が手術をしていたと報じたが、『文春』によれば、以前同誌が報じたバセドウ病の手術だったというのだ。

 帝京大学医学部名誉教授の高見博氏はこういっている。
 「この手術痕であれば、バセドウ病と考えて間違いないでしょう。傷が正中にあるので、腫瘍とかそういう類ではありません。(中略)
 バセドウ病になると、本来は激しい運動は控えないといけない。(中略)本田選手の様なアスリートの場合は運動を前提にしている。メルカゾールなどの抗甲状腺剤を服用してプレーしていたのでしょうが、本当に大変だったと思います」

 チームの大黒柱だけに気になる情報ではある。本田頑張れ! ニッポンチャチャチャ!
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 子どもたちのあいだで、またたく間にブームとなった『妖怪ウォッチ』。もとは2013年7月にリリースされたニンテンドー3DSのゲームである。開発したレベルファイブは、『イナズマイレブン』『ダンボール戦機』など、これまでも多くのメディアミックスを成功させてきた「やり手」だ。今回は、あくまで「日常」が舞台で、妖怪たちと「ともだち」になっていくシステムがミソ。

 この『妖怪ウォッチ』、2014年1月からさっそくテレビアニメがスタートしているが、ゲームよりもさらにコミカルな世界観は、子どもたちに十二分にアピールしている。加えて、オープニング曲としてヒットしているのが、『ゲラゲラポーのうた』。歌っているのは、謎のユニット「キング・クリームソーダ」(プログレのバンド「キング・クリムゾン」から来ていることは、親だけがニヤリとする仕組みだろう)。ボーカルのマイコ、ラップを担当するゲラッパー、ベテラン歌手の風格漂うZZROCK(ジージーロック)の3人から成る。一応、正体不明の3人ということになっているので無粋な記述は避けるが、一つだけ。『ゲラゲラポーのうた』の作詞には、昨年まで「m.o.v.e(ムーヴ)」というユニットで活躍したラッパーのmotsuがクレジットされている。

 「ゲラゲラポー、ゲラゲラポー……」という繰り返しが、非常に耳に残る。ユニットとしての構成も含めて、B.B.クイーンズが歌った『おどるポンポコリン』を髣髴とさせる(ZZROCKは近藤房之助のポジション?)。アニメソング限定ユニットという「企画もの」は、ときにこうした上質のポップスを生み出すので、なかなかあなどれないものがあるのだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 「すべての悩みは対人関係の悩みである」
 「『あの人』の期待を満たすために生きてはいけない」

 フリーランスライターの古賀史健(ふみたけ)氏と哲学者の岸見一郎氏が、アドラー心理学を紹介した自己啓発本、『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)がベストセラーになっている。

 アルフレッド・アドラーは、1870年にオーストリアで誕生した精神科医で、フロイト、ユングと並ぶパーソナリティ理論や心理療法を確立した心理学者でもある。だが、フロイトが心に負った傷(トラウマ)が人生を決定づけるという「原因論」に立っているのに対して、アドラーはトラウマを否定。

 人は、なんらかの目的を達成するために、過去の出来事を利用し、感情をねつ造するという「目的論」を展開する。感情や過去に支配されて行動するのではなく、その人自身が過去の出来事をどのように意味づけするかによって現在が決まっていくという考え方だ。

 『嫌われる勇気』は、人生に迷う「青年」と、それを導く「哲人」との対話形式の物語を通じて、「すべての悩みは対人関係にある」「承認欲求を否定する」「自分と他者の課題を切り分け、他者の課題には踏み込まない」といった難解なアドラー心理学を分かりやすく紹介している。そして、青年と哲人との問答を続けながら、「嫌われる勇気」をもつことができれば、「人は変われる」「人はいま、この瞬間から幸せになれる」という答えに導くという展開となっている。

 要は、「人生は気の持ちよう」。「周りを気にせずに、自分の信じた道を進めばいい」と言っているわけだが、今、こうした啓発本がベストセラーになる背景には、ソーシャルネットワークサービス(SNS)の発達もあるだろう。

 たとえば、facebook(フェイスブック)では、クリックひとつで、友達になったり、友達をやめたりと忙しく、自分のコメントに対する「いいね!」の数を競い合う。自分の存在を認めてもらいたいという「承認欲求」のために、自分を演出するといったことが行なわれる。そうしたSNSでの人間関係に疲れた人たちに、「自由とは他者から嫌われることである」「対人関係のカードは常に『わたし』が握っている」といったアドラーの言葉は刺さるのかもしれない。

 だが、『嫌われる勇気』を読み、その中から自分の不安を解消する言葉を見つけるだけでは、アドラーが否定する「承認欲求」を求めるのと同じような気もする。

 本当に「変わりたい」「幸せになりたい」のならば、アドラーの思想を真に理解し、実践する必要があるだろう。『嫌われる勇気』では、哲人はこう述べている。

 「世界とは、他の誰かが変えてくれるものではなく、ただ『わたし』によってしか変わりえない」と。

 幸せになるために。あなたは「変わる」ことができるだろうか。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 このわずか1か月半の間に知名度を増した、「美魔女」ならぬ「美魔男」という言葉。「美魔女」は、雑誌『美STORY』(現・『美ST』、光文社)の定義によれば35歳以上の美しい女性を指す。これにのっとるなら「美魔男」も30代後半からの「美しい男性」ということになりそうだが、どうも実際のところ違う。肌の手入れに気を使い、実際に肌はつるつるなのだが、(失礼ながら)必ずしも「イケメン・モテメン」ではない。むしろ、「ナルシスティック」のニュアンスで使われることが多いようなのだ。

 「美魔男」が広まった経緯は次のようなものである。辻仁成(つじ・ひとなり)と中山美穂が、すわ離婚かと騒がれた4月17日のこと。フジテレビ系の情報番組『ノンストップ』が、騒動に引っかけて「美魔男」を取り上げた。一連のごたごたは、辻の「中性化」に中山美穂がついていけなくなったから、という「説」を受けてのものだ。番組では「女装する男性たち」や、ロックバンドLUNA SEA(ルナシー)の真矢(しんや)がスキンケアにこだわっているという情報も紹介された。さほど多くはない事例を「現象」として誇張する、いかにもワイドショー的な切り口といえるだろう。

 この「夫が急激に変貌する悲喜劇」は、視聴者にかなりのインパクトを持って迎えられたようだ。夫の加齢臭や中年太りも、決して好ましいものではない。しかし、その対極にある「美魔男化」だって、なんと反応していいものか。現代における中年男性は、若いころから小ぎれいにする生活習慣ができているだけに、女性にとっては「ありえる家庭の危機」と受け取られた模様。「美魔女」たちが騒がれる現代でも、女性の皆が皆「美」にお金をかけているわけでなく、「私よりも美しさにこだわるなんて……」と困惑しているわけだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 安倍政権が新たな新成長戦略の看板政策として「農協改革」を打ち出した。

 農協は「全国農業協同組合中央会」(JA全中)とその傘下の地域農協から成り立つ組織で、組合員数は約1000万。職員数は21万人を抱える。まさに日本農業を差配する大組織だ。

 改革の柱は、JA全中を頂点としたピラミッド構造「中央会制度」を廃止することだ。また、農産物販売などを手がける関連組織の全国農業協同組合連合会(JA全農)の株式会社化を視野に置くほか、農地売買の許可権を持つ農業委員会の見直しも行なう方針だ。

 JA全中は、その上意下達、画一的な経営指導体制への批判が根強く、「魅力ある農業」を創り出せていない。その影響もあるのか、日本農業は後継者不足に陥り、農業従事者の平均年齢は66歳を超える。「村役場を定年退職した人が90歳近い父親から農業を引き継ぐ」(九州の自治体首長)なんてケースも少なくないという。

 改革の旗を振る安倍晋三首相は「農業を新たな成長産業にするため、農業協同組合のあり方を抜本的に見直していきたい」とその意義を強調する。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉で日本農業を取り巻く国際環境が厳しくなるなか、安倍首相としては「このままでは農業は立ちゆかなくなる。地域農協の自立を促し、企業の参入も認めるなど規制緩和が必要だ」ということだろう。

 こうした動きに対し、当事者のJA全中は反発している。全国の組合長などを集めて反対決議などを行なっているが、自民党農林族を含めて今ひとつ声が大きくならない。農協はいまも昔も自民党の有力支持団体なのだが地盤沈下が激しいということか。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 ミドル世代の男性(30~40代)が、とくに頭部から発生させる、加齢臭とは一線を画した「脂っぽい汗の臭い」を指す。

 男性用化粧品の分野で大きなシェアをもつ化粧品メーカー『マンダム』の発表によると、ミドル脂臭の原因となるのは「ジアセチル」という成分であるとのこと。

 しかし、30年ほど前だと、まったく気にもならなかった、あれこれの類の“体臭”を無理くり捻出し、まだ“モテ”に対する業(ごう)を捨て切れていない、ちまたの純朴な中年男性たちを煽っているだけ……な向きも感じられなくはない。

 ちなみに、たとえば江戸時代とかにタイムスリップした場合、漫画や映画だと、その文化や風習上のギャップに主人公が戸惑いを見せるケースが王道だが、じつはそれ以前に周囲が放つ猛烈な悪臭に、無臭をベストな状態とする現代人は耐えられないのではないか、と筆者は推測している。

 過去にそういう“におい”を題材にしたタイムスリップモノの小説執筆にチャレンジしたこともある筆者だが、嗅覚をメインの題材としたものを文字だけで表現するのは、少なくとも筆者の才能では果てしなく困難という結論に到り、5ページくらい書いたところで、あえなく断念した……。
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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