京都人にもっとも親しまれているお茶である。一般家庭から事務所、食堂と、朝一番に大きめのヤカンでたっぷりのお湯を沸騰させ、火を止める。茶葉をわしづかみで二回分ほど入れ、煮出さず自然に、十数分程度浸けだしにしたお茶である。冷蔵庫で冷やしておけば、赤ちゃんからおばあちゃんまで、また気が置けない知人とのおやつ時間にと、丸一日、飲み物に不自由することはない。

 京都のスーパーマーケットなどでお茶の売り場に行くと、ふっと、焚き火か、煙草みたいな「いぶい」匂いを発している一角がある。この香りのもとが京番茶であり、袋の中には、枯れ葉とおぼしき葉や茎などが混じり合って入っている。知らない人には、漢方か、怪しげなものに見えるのではないだろうか。

 京番茶は「いり番茶」とも呼ばれ、ほうじ茶の一種である。ただし、一般的なほうじ茶とは、見た目も、味わいも、ずいぶん異なっている。使われている茶葉は、玉露や抹茶のように、春の枝先に芽吹いたばかりの新芽ではなく、枝の根元側に昨年より成長している古葉である。これらの葉は、初摘みの後に枝ごと刈り取られ、葉や茎や枝が混じったそのままの状態でやや低温で蒸され、発酵が進められる。茶葉はこの状態で保存されており、出荷される直前に高温の鉄釜で焦がしながら短時間で香ばしく煎り上げている。そのため、茶葉コーナーでひと際強い芳香を放っているのである。

 「いぶい」匂い、いがらっぽく感じる味には慣れが必要だが、飲み慣れればやみつきになる味わいである。カフェインやタンニンといった刺激のある成分が少ないため、京番茶は「赤ちゃん番茶」としても浸透しており、京都っ子は物心のつかないうちから口にしている味わいなのだ。京番茶は、飲むお茶としてだけでなく、料理で身欠き鰊の臭みをとって身を柔らかくしたり、茶粥にしたりと、京都の暮らしとは切っても切れない深いつながりがある。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 「消費税8%」もだいぶなじんできた。現状では、過去の消費税騒ぎよりも落ち着いていると言えるのではないだろうか。増税前は「悲観的な」予測も多々あったもので、実際、まだまだ油断ならぬとはいえ、いまの消費動向は「悪くない」レベル。また、はっきりと「好調」な売れ行きを示している商品もある。

 たとえば、コンビニやファミリーレストランの「ほどほどに高い」商品群だ。安さへのこだわりを維持する一方で、あえて良質の食材を使ったメニューも提案する。デニーズが2000円近いローストビーフをヒットさせたトピックは、よく業界の戦略事例として話題に上っている。強調すべきポイントは、「美味しさを追求して少し金額を乗せる」ことは、「安かろう、まずかろう」よりも、飲食店としての王道であるということだ。デフレの時代には、その王道を貫くことが苦しいこともあった。いま、飲食業界に価格競争で消耗したくないという雰囲気が生まれている。

 素材などの価値を乗せて値段を設定したものが、消費税の影響を被ることなく売れる。こうした動きを、2014年上期の「日経MJヒット商品番付」では「価値組消費」と呼んでいる。ちなみにこのランキングでは、価値組消費が東の「大関」となる一方で、対照的な「格安スマホ」が最上位の東の「横綱」となっている。価値組消費だけを見て「デフレ脱却」と喜ぶのはまだまだ早計ということだが、価格以外の価値が見直されている動向も明確だ。今後もトレンドになるであろう「少し高い」商品は、安さの呪縛に苦しんだ多くの企業にとって、起死回生の突破口となるだろうか。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 ヘルパンギーナは、夏風邪の一種で、おもに乳幼児に多く発生するウイルス感染症だ。患者数は、例年5月頃から増え始め、7月にピークを迎えて、8月から減少して、9月には収束する。

 国立感染症研究所の発表によれば、29週目(7月14~20日)のヘルパンギーナの患者数は1万5547件だったものが、翌30週(7月21~27日)は1万2979件に減少。今年も、そろそろピークは過ぎ去りそうだが、免疫力が低下していると感染リスクも高まるので、夏の疲れが出てくるこの時期は油断禁物だ。

 冬の風邪がコロナウイルスやライノウイルスを原因とするものが多いのに対して、夏風邪のヘルパンギーナは、高温多湿の時期に活発になるエンテロウイルスの感染によって発症し、中でもコクサッキーウイルスA群・B群やエコーウイルスが主な原因となっている。感染すると、2~4日の潜伏期間を経て、突然、発熱するのが特徴。おもな症状は次の3つだ。

(1)38~40度近い高熱を出す
(2)口腔内に複数の水泡ができたり、口内炎ができる
(3)喉や口蓋垂(のどちんこ)が赤く炎症する

 乳幼児の場合、ヘルパンギーナにかかると、高熱による熱性けいれんを起こすことがある。また、水泡が破れたり、喉に痛みを感じるため、おっぱいを飲まなくなったり、食事を嫌がったりすることによる脱水症状を起こすこともある。いずれも適切な治療を行なえば、回復に向かうが、まれに無菌性髄膜炎、急性心筋炎などを合併することもある。夏風邪と油断せず、ヘルパンギーナが疑われる場合は医療機関を受診し、注意深く観察するようにしたい。

 いまのところ、ヘルパンギーナの特効薬や予防のためのワクチンはなく、罹患すると熱を下げたり、水泡の痛みをとったりするための対症療法しかない。

 できるだけ感染しないためには、夏でも油断せずに、うがい・手洗いを心がけたい。また、エンテロウイルスは発熱や水泡などの症状が治まったあとも、2~3週間以上、便から検出されることも多い。大人への二次感染を防ぐためには、ヘルパンギーナに感染した乳幼児のおむつ交換には注意を払い、使い捨ての手袋を使ったり、手洗いするように気をつけたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 サラリーマンとして一生懸命に働くだけでは、妻や世間からの親としての評価はなかなか高まらない。子育てに積極的に参加する「イクメン」で、ようやく「立派な」パパの扱いとなるようだ。この時代の雰囲気は、一部の親にとってはなかなかストレスにもなるだろう。仕事の性質上、どうしても子どもとの時間がつくれない父親は、ある種の「罪悪感」を抱いてしまうことになる。

 父親の育児参加が成立するためには、所属する企業、また直属の上司の理解が不可欠だ。残念ながらいまの日本において、イクメンは個人で主張して通る権利ではない。そこで、社員が「イクメン」となれる職場環境を具体化する管理職、「イクボス」も注目されるようになった。利益確保を課せられている管理職が、子育てという個人の事情を斟酌(しんしゃく)して業務をまわすのは、現実的にはなかなかしんどい話だ。誤解を恐れずに言えば、とにかく営業成績だけを考えていた過去よりも、いまどきの「ボス」は仕事上の悩みも複雑であろう。

 ただでさえ、景気の上向きが実感として感じられず、まずは働きに働いてかたちにしなくてはならないという時代だ。会社の求める仕事量が多すぎて、育児どころか休む時間すら満足にとれない環境もあろう。また、イクボスであるがゆえに、部下のイクメンが担うはずの雑事も背負い込み、自らは子どもとの時間が少なくなるパターンもあるのではないか。やがては、子育てしながらこなす仕事量の「落としどころ」が見えてくる時代は来るはずだ。しかしそれまでは、ボスの悩みも尽きない。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 総務省が7月末、気になる数字を発表した。2013年の住宅・土地統計調査で全国の空き家の数が820万戸で過去最多となったというのである。5年前の前回調査から63万戸増え、総住宅数に占める割合も13.5%に達した。実に7.4戸に1戸は空き家というわけである。人口減少や高齢化で施設に入所するお年寄りが増えたことが背景にある。

 とりわけ防犯上の問題を投げかけているのが、住む人が立ち去り「放置された空き家」である。放火されたり、不審者のたまり場になったりする。屋根や壁が崩れ落ちることもある。景観上もよくない。そのため、隣近所から「迷惑住宅」として苦情が自治体に寄せられている。

 空き家が増え続けるのは税制上の理由もある。解体して更地にすると固定資産税が最大6倍に増えるからだ。

 地方自治体の中には解体費用を補助するところや、物件情報をネット上で公開する空き家の登録制度「空き家バンク」を導入して居住者を呼び込もうとしているところがある。しかし、それだけでは増加に歯止めがかからない。もっと実効的な施策が必要だ。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 数年ほど前、女子のあいだで「お城」がちょっとしたブームになって、今度は「寺派(てらは)」? ……って意味ではなく、テラハとは「テラスハウス」の略語のこと。

 テラスハウスとは本来だと「各戸が専用の庭を持った連続住宅」などを指すが、日本での広義の解釈では単なる「庭付きの一軒家」に含める場合もある。そして、そんな「テラスハウス」を家賃の人数割りで部屋をシェアし、リビングルームは共有スペースとするライフスタイルが一部の若者のあいだに根付きはじめ、こういったトレンドのことを「テラハブーム」と呼ぶ。

 “生活の知恵”として、じつはけっこう昔からあったスタイルだが、男女6人がシェアハウスを通じて織りなす人間関係に密着するフジテレビのバラエティー番組『テラスハウス』(毎月曜23時~、残念ながら9月末で終了)で大ブレイク。近年では、「趣味が合う者同士」「同業他社の者同士」「ノン気女子とゲイ」……ほか、組み合わせの共通項も細分化してきている。

 テラハブームに乗るタイプの若者は、彼氏や彼女がいても、その彼ら彼女らを同居人に大っぴらに紹介し、“友だちの輪”を広げていくことを好み、セックスにもあまり積極的ではなかったりするので、案外トラブルは少ない……らしい。「プライベート」より「寂しさ晴らし」に比重を置く若者が増えているというわけだ。
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   



 「おしょらいさん」があの世へかえられる8月16日の朝、お盆にお供えする最後のお膳には、あらめとお揚げ(油揚げ)か、揚げ豆腐をたいたものを供えるというきまりがある。このときのゆで汁を捨てずに、家の門口にまくと、「おしょらいさん」はこの世に未練を残すことなく、冥途へかえっていかれるという。これが「追い出しあらめ」と呼ばれている理由である。

 昆布科の褐藻(かっそう)を細かく刻んで乾燥させた「あらめ」は、京都人に欠かせないおばんざいの材料である。京都の商家などで「あらめとお揚げのたいたん」は、毎月三度の「八」がつく日に食べるおばんざいであった。これは、あらめのゆで汁を走り(流し)の下にまけば病気にならない、という言い伝えと、めでたい末広がりの「八」のつく日に、商いの「芽」が出るようにという願いを、掛け合わせたからといわれている。

 「追い出しあらめ」の味付けは至って簡素である。まず、あらめを十分に水に浸けて柔らかく戻してからよく洗い、細かく切ったら、昆布のだしで炊く。砂糖、淡口と濃口の醤油を使って味をつけ、刻んだお揚げを入れて煮れば完成。精進料理のときでなければ、お揚げを入れるときに鰹節を一緒に入れれば、ダシにコクが加わり、一層おいしくなる。

 お盆の間の各家では、生臭なものは鰹節のだしさえ使わないお膳や間水(けんずい=おやつ)が仏壇に供えられる。お供え物には七種(なないろ)という、蓮の葉に七種類の野菜や果物を載せたものを用いるのが決まりの一つ。個々の内容に特別な決まりはないようであるが、ホオズキは必ず入っており、このほか、瓜、ささげ、枝豆、インゲン豆、茄子、サツマイモなどをお供えするのが一般的である。


あらめとお揚げのたいたん。酒の肴にも抜群であるが、最近はできあいのものが入手しにくくなってきた。人気がないのか、とても残念である。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


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