「おしょらいさん」があの世へかえられる8月16日の朝、お盆にお供えする最後のお膳には、あらめとお揚げ(油揚げ)か、揚げ豆腐をたいたものを供えるというきまりがある。このときのゆで汁を捨てずに、家の門口にまくと、「おしょらいさん」はこの世に未練を残すことなく、冥途へかえっていかれるという。これが「追い出しあらめ」と呼ばれている理由である。

 昆布科の褐藻(かっそう)を細かく刻んで乾燥させた「あらめ」は、京都人に欠かせないおばんざいの材料である。京都の商家などで「あらめとお揚げのたいたん」は、毎月三度の「八」がつく日に食べるおばんざいであった。これは、あらめのゆで汁を走り(流し)の下にまけば病気にならない、という言い伝えと、めでたい末広がりの「八」のつく日に、商いの「芽」が出るようにという願いを、掛け合わせたからといわれている。

 「追い出しあらめ」の味付けは至って簡素である。まず、あらめを十分に水に浸けて柔らかく戻してからよく洗い、細かく切ったら、昆布のだしで炊く。砂糖、淡口と濃口の醤油を使って味をつけ、刻んだお揚げを入れて煮れば完成。精進料理のときでなければ、お揚げを入れるときに鰹節を一緒に入れれば、ダシにコクが加わり、一層おいしくなる。

 お盆の間の各家では、生臭なものは鰹節のだしさえ使わないお膳や間水(けんずい=おやつ)が仏壇に供えられる。お供え物には七種(なないろ)という、蓮の葉に七種類の野菜や果物を載せたものを用いるのが決まりの一つ。個々の内容に特別な決まりはないようであるが、ホオズキは必ず入っており、このほか、瓜、ささげ、枝豆、インゲン豆、茄子、サツマイモなどをお供えするのが一般的である。


あらめとお揚げのたいたん。酒の肴にも抜群であるが、最近はできあいのものが入手しにくくなってきた。人気がないのか、とても残念である。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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