1月7日、目出し帽と弾薬ポーチを身に着け、カラシニコフ銃を持った二人がフランス・パリにある風刺専門週刊紙
『シャルリ・エブド』(以下『シャルリ』)の会議室に押し入り、ステファン・シャルボニエ編集長(47)を含む12人を銃殺した事件は、世界中に大きな衝撃を与えた。
犯人はアルジェリア系フランス人兄弟、サイド・クアシ容疑者(34)とシェリフ・クアシ容疑者(32)。二人は襲撃後、シャルル・ドゴール空港から8キロのところにある印刷所に立てこもっていたが、フランス軍治安部隊が突入して射殺された。
この兄弟と呼応して女性警察官を殺してスーパーを占拠したマリ系フランス人、アメディ・クリバリ容疑者(32)も治安部隊に射殺された。
『週刊文春』(1/22号、以下『文春』)によれば、クアシ兄弟はモスクで知り合った男を師と仰ぐようになり、後にイエメンに渡ってアルカイダの戦闘訓練を受けたという。クリバリとシェリフは収監されていた刑務所で知り合った。
事件後、推定370万人もの人々が事件への抗議のために街頭へ出て、
「私はシャルリ」と書かれた連帯のメッセージを掲げた。共感の波は世界中に広がっている。
『シャルリ』の発行部数は3~4万部程度だが、知名度は高い。それは風刺画がメインでイスラム教だけではなく、キリスト教、ユダヤ教などあらゆるものを批判して、しばしば物議を醸しているからだ。特にイスラム予言者のムハンマドの風刺画が偶像崇拝を禁じているイスラム教徒から強い怒りを買っていた。
だが、シャルボニエ編集長はモロッコ誌のインタビューで「テロの標的になっているが怖くないか」と聞かれ、こう答えたと『文春』が報じている。
「報復は怖くない。私には妻も子も車もローンもないからね。ひざまずいて生きるより立って死にたい」
その言やよしだが、同紙の挑発的でときにはわいせつな風刺画に対しては批判も多く、事件は「言論の自由はどこまで守られるべきか」という問題も提起した。
『週刊新潮』(1/22号)でS・P・I特派員のヤン・デンマン氏がこの問題を取り上げ、日本人記者とフランス人記者とのやり取りを載せているが興味深い。
日本人記者が「僕も、暴力は絶対反対ですよ。でも、“表現の自由”は“何でもアリ”というものでもないはずだ」と言い、日本の新聞協会が作った倫理綱領には「人に関する批評は、その人の面前において直接語りうる限度にとどむべきである」と書いてあるとフランス人記者に言うのだが、これはあまりにもきれい事過ぎると思う。もしかすると朝日新聞の記者かな?
それに対してフランス人記者は、フランス人は野放図に自由を謳歌しているのではないと反論する。フランスの現憲法には表現の自由に関する規定はないが、フランス人権宣言11条に「すべての市民は、法律によって定められた場合にその自由の濫用について責任を負うほかは、自由に、話し、書き、印刷することができる」とある。自由は法律によって制限され、ナチスを肯定したりホロコーストを否定するような表現は法律で禁止されているというのだ。
だが『シャルリ』のようなイスラム教徒への挑発風刺画は、法を犯しているわけではないから「それを止める手立てはない」と話している。だが『ニューズウィーク日本版』(1/27号、以下『ニューズウィーク』)によれば、これまで『シャルリ』は名誉毀損裁判を数多く起こされているが、そのほとんどに敗訴していたそうだ。そのため経営的には苦しく、このままいけば倒産していたのではないかと報じているメディアもあった。
言論の自由は国によっても大きく違う。『ニューズウィーク』によれば、アメリカでは合衆国憲法修正第1条で言論の自由を法律で制限することを禁じてはいるが、国家機密の漏洩(ろうえい)や名誉毀損については保護されない。
イギリスとフランスでは、憲法上の規定はないものの、人種や宗教や性的指向を侮辱すれば刑法上の罪に問われ罰金や懲役刑の対象になる。翻って日本ではどうか。首相の女性問題が発覚したとして、表紙にスーツ姿の首相がペニスだけをポロリと出したマンガを掲載したら、どんな反響が出るだろうか(オランド仏大統領は『シャルリ』にそうした漫画を載せられたが、今回の事件後、パリでのデモの先頭に立った)。
こんな極端なケースを出さずとも、名誉毀損はもちろんのこと、個人情報保護法や特定秘密保護法で言論の自由はがんじがらめになり、窒息寸前だ。だが、国民もメディアも、自らが血を流して権力から奪い取った権利ではないから、他人事のように
「無関心」である。
イスラム過激派のテロの恐怖は遠い国の話だと思っていた日本人に、1月20日、衝撃的な映像が飛び込んできた。
「イスラム国」の人間がジャーナリストの後藤健二さん(47)と湯川遥菜(はるな)さん(42)を殺すと予告し、二人を救いたければ72時間以内に2億ドル払えというのだ。中東を歴訪している安倍首相が「イスラム国」対策として2億ドルを拠出し、「テロとの戦い」を表明したことがきっかけだという。
使い古された言い方で申し訳ないが、集団的自衛権を容認してアメリカと一緒に戦争のできる国にしようと考えている安倍首相の言動が、こうした事態を招いた一因であることは間違いない。アメリカと同一視され憎悪の対象となれば、中東にいる日本人の安全は風前の灯火になる。
アルカイダやボコ・ハラム、イスラム国の暴威は絶対許すことはできない。テロと戦うことは当然である。だが、口で勇ましいことを言ったり、したり顔でテロに屈してはいけないと書くだけでは、いまの深刻な文明の衝突から逃れることはできない。
世界中にいる邦人たちの安全を守るためには、アメリカの“植民地”支配から脱し、平和主義を掲げてアジアや中東諸国と友好関係をつくっていくしか道はないと思う。そのためには真の言論の自由を自分たちのもとに取り戻す、という覚悟が必要なことはいうまでもない。
元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
安倍首相にとって厳しい年明けになったが、対応を一歩間違えると、日本国内でもテロが起こる可能性が出てくるはずだ。
安倍首相が舵取りを間違えないか、注視するために役に立つ記事を3本選んでみた。
第1位 「安倍首相『がん専門医を主治医に登用』緊迫の舞台裏スッパ抜く」(『週刊ポスト』(1/30号)
第2位 「新大河『花燃ゆ』と安倍首相&創価学会『ただならぬ関係』」(『週刊ポスト』(1/30号)
第3位 「桑田佳祐と安倍晋三 どっちが歴史に名を残すか」(『週刊現代』1/31号)
第3位。『現代』はサザンオールスターズの桑田佳祐が紅白で歌った歌が、安倍政権批判ではないかと騒ぎになっていることをとりあげ、
「どっちが歴史に名を残すか」という特集を組んでいる。
サザンオールスターズが1曲目に演奏した「ピースとハイライト」は、紛争の愚かしさや平和的な解決を訴える楽曲で、とくに〈都合のいい大義名分(かいしゃく)で/争いを仕掛けて/裸の王様が牛耳る世は……狂気(Insane)〉という歌詞は、憲法九条の解釈改憲を皮肉っているともとれる。
また、桑田のちょび髭姿や「ピースとハイライト」という選曲は、「安倍晋三総理を独裁者になぞらえた、政権批判ではないか」と、紅白直後からインターネット上で話題になっていた。
その3日前の昨年12月28日にも、サザンの年末ライブを安倍総理と夫人が聞きに行ったが、そこでも曲目が「爆笑アイランド」になったとき、桑田が突然替え歌で「衆院解散なんて無茶をいう」と、昨年末に突然の解散総選挙を行なった安倍総理を皮肉るようなアドリブを放ち、安倍総理はすっかり不機嫌になり、早めに会場を出てしまったそうだ。
「桑田は、国民のお祭り行事である紅白という舞台で、自らの武器である歌を使い、総理やNHKという権威に、異議を申し立てたことになる」(『現代』)
2曲目に歌った「東京VICTORY」の歌詞にもこういう含みがあると、滋賀県立大学の細馬宏通(ほそま・ひろみち)教授は言う。
「この前まで大震災からの復興を考えていたはずなのに、もう忘れてオリンピックですか? そういう問いも感じさせる、陰影のある歌詞なんです」
だが、桑田はこの騒動に対して、ラジオなどで、
そんな意図はなかったと釈明している。少なくとも安倍首相に対する批判のメッセージだったとでも言ってほしかった。桑田はジョン・レノンにはなれなかったようだ。
『現代』は、2人のうちのどちらが歴史に名をより深く刻むのか、
歌手である桑田より、総理を2度も務めた安倍氏のほうが有力だというが、そうではあるまい。60年安保のときのことを思い出すとき、岸信介首相よりも西田佐知子の『アカシアの雨がやむとき』を思い出す人間のほうが圧倒的に多いと思うのだが。
第2位。安倍首相の腰巾着の一人
NHKの籾井(もみい)会長が、今年から始まった大河ドラマ『花燃ゆ』を安倍首相の出身地の山口県にしたのではないかと、『ポスト』が疑問を呈している。
幕末の長州藩士で維新志士の理論的指導者であった吉田松陰の妹・杉文(すぎ・ふみ)の生涯を描く新大河ドラマ『花燃ゆ』だが、1月4日の第1回の視聴率が関東地区で16.7%、第2回も13.4%と全く振るわない。
関係者の間では、そんな大河ドラマをNHKが製作したのは、NHK側に安倍政権への阿(おもね)りがあると、当初から言われていたそうだ。根拠のひとつが制作発表の遅れだという。
山口県・萩市の商工観光部観光課課長はこう証言している。
「NHKのチーフ・プロデューサーがこちらに来たのは(2013年=筆者注)9月のことです。脚本家2人を連れて『山口県に何か大河ドラマの題材がありませんか』などと聞かれ、市内の案内も頼まれました」
例年なら制作発表が終わっている時期にもかかわらず題材も主人公も未定で、しかし舞台となる場所だけは決まっていたようなのだ。
安倍首相はかねてから吉田松陰を尊敬していると公言してきた。そして制作発表がなされた後の昨年7月に、地元で開かれた講演会で『来年は長州を舞台にした大河ドラマが放送されると聞いています。松陰先生の妹さんが主人公です』と莫大な経済効果をもたらす大河ドラマ放送を嬉しそうに語っていたそうである。山口県がメインの舞台となるのは77年の『花神』以来38年ぶりのことだそうだ。
会津藩を描いた『八重の桜』をやったことに腹を立てた安倍首相が、それなら長州ものをやれとNHKにねじ込んだのだろうか。
第1位。『ポスト』が安倍首相の気になる情報を載せている。首相の体調管理は主治医で慶応大学医学部教授(同病院消化器内科)だった日比紀文(としふみ)氏(現在は北里大学大学院特任教授)を中心とした医療チームが細心の注意を払ってきたが、昨年末から年始にかけて、
その医療体制に大きな変化があったというのである。
日比氏に代わって主治医に就任したのは腫瘍の専門医、慶応大学病院腫瘍センター(がん専門初診外来)の高石官均(ひろまさ)准教授。
注目されているのは両氏の専門の違いだ。高石氏はがん治療認定医、がん薬物療法指導医などの資格を持ち、大腸炎そのものではなく、症状が悪化して腫瘍ができた場合の治療が専門だそうだ。
安倍首相の持病である潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に潰瘍ができやすい原因不明の難病だが、専門医の間では、長期間患っている患者は大腸がんになりやすいことが知られている。
安倍首相が最初に潰瘍性大腸炎の診断を受けたのは神戸製鋼のサラリーマン時代。すでに30年が経つそうだ。
安倍首相は新聞の首相動静欄を見ると、秘書官や記者、ブレーンの学者、財界人らと焼き肉、中華、フレンチなどの酒食を共にして
健啖家(けんたんか)ぶりを発揮しているように見える。
しかし、これは
健康をアピールするパフォーマンスのようだと『ポスト』は指摘している。プライベートでは違うようだ。
安倍首相がよく通う店の関係者がこう証言する。
「安倍さんは記者の方といらっしゃるときはお酒を飲まれますが、プライベートの時は一切口にされません。ウーロン茶ばかりです」
記者の前ではよくカクテルの「レッド・アイ」を飲むというが、これはビールにトマトジュースを加えたものなので、実際にはどれだけビールが入っているかわからないそうだ。
潰瘍性大腸炎の治療でアサコールとステロイドを併用することは珍しくない。副作用が出た際は、通常は量を調節する。安倍首相は表向き「健康」と言いながら、実は炎症が悪化してステロイドで抑えており、副作用が強くなっているのに炎症がひどくてステロイドの量を減らすことができず、副作用の対症薬が新たに必要になっている可能性があると『ポスト』は指摘する。
安倍首相は党則を変えて東京五輪まで首相を続けたい意向のようだが、もしこの報道が事実なら、体力がもたない可能性が大であろう。