生活保護は、手持ち資産や働く能力などをすべて活用しても、自力では生活できない人に対して、国や自治体が最低限度の生活を保障する制度。受給者に支給される生活費や医療費は税金で賄(まかな)われており、「働かざるもの食うべからず」という考えが根強い日本では、受給者には厳しい目が向けられがちだ。とくに、2012年4月に高所得のお笑い芸人の母親が生活保護を受給していたと報道されて以来、その傾向が強まっている。
たしかに、なかには資産を隠したり、偽装離婚で母子家庭を装ったりして、生活保護を不正受給している人がいるのも事実だ。しかし、2010年度の不正件数は2万5355件で全体の1.8%。金額ベースでは約129億円で、支給総額3.3兆円余の0.38%と非常に少ない水準だ(厚生労働省資料より)。
受給者のほとんどは適正に利用しているのだが、マスメディアを中心とする報道では、ほかに比較する対象を示さずに一部の悪質な事例ばかりを報じることが多いため、事情を知らない人は「生活保護のほとんどが不正受給」という間違ったイメージを抱きがちだ。
そもそも日本の人口に占める生活保護利用率は2010年度は1.6%で、ドイツの9.7%、フランスの5.7%、イギリスの9.27%に比べて非常に低い。反対に、本来なら生活保護を利用する資格があるのに、保護費が支給されていない漏給者は現状の3~4倍はいると予測されている。
現在、厚生労働省では不正受給対策を盛り込んだ制度改革に向けた話し合いが行なわれている。適正化を謳(うた)うのであれば、これまで捕捉されてこなかった困窮者も掘り起こし、本当に必要な人すべてが生活保護を受給できるような仕組みづくりが必要になるだろう。