建築家・作家・絵描き。34歳。『週刊現代』(12/8号)によると、いまの政府には期待できないと、2011年5月に「独立国家」を熊本につくり、自ら総理大臣に就任した。
建国のきっかけは福島第一原発の事故。危険があるのに正確な情報を教えない、国民を守らない政府を見て、これは政府ではないと思い、生存権に特化した国と政府を作ってしまったのだ。
「原発事故への対応を見て腸(はらわた)が煮えたぎったけど、不満は以前からあった。月給18万円の人がワンルームに住んで8万円も家賃を払うなんて異常。金のないやつは住む場所がなくてもいい、って話でしょう。(略)もはや政府ではないと思った。だから、日本は無政府状態なんです。でも政府がないのはまずいから、自分が国を建てて、その国の内閣総理大臣になるしかないと」(坂口)
彼が目指しているのは土地と住宅からの解放。早稲田大学時代建築学科に籍を置き、路上生活者たちの調査をしてみたら、彼らの中にはホームレスではなく、合法的に家を持っている人間がいた。調べてみると、係争の結果、誰も所有していない土地や、国と都、どちらが所有権を持つのか決まらずに放置されている土地が都内にあることもわかってきた。
彼らには段ボールハウスは寝室に過ぎない。図書館が本棚、公園は水場、スーパーは冷蔵庫。都市空間のすべてを自分の家と捉える発想があることに気づく。
それをヒントに自分でモバイルハウスを作る。ベニヤ板だけで作った三畳間だけの小さな家だが、リヤカーの車輪がついているのがミソで、これだけで車両扱いになる。建築基準法上の「家」ではないから固定資産税はかからないし、建てるのに免許もいらない。
初期投資に2万~3万円はかかるが家賃はゼロ。井戸水を使い、自家発電を行なえば、水道光熱費もゼロだ。
使われていない土地を無償で借りてモバイルハウスを並べ、0円で泊まれる避難場所を用意し、福島の子どもたちや東日本からの避難者を受け入れている。
坂口はツイッターのフォロワーを新政府の国民と定義していて、現時点で3万2000人超の国民がいる。東京ミッドタウンにあるフリースペースの使用権を無償で譲り受け、そこを国会議事堂にするという。
妻と4歳の子どもを持ち、収入は原稿料とドローイング(絵)の販売、それにカンパ。
坂口は『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)でこういっている。
「35年ローンをほとんど強要するような労働環境は、まるで奴隷制度である。その土地に縛られ、身動きが取れなくなる。それでも働かないと借金を返せない。死の灰がどれだけ積もっているとわかっていても、生活費、ローンを返すためには仕事をやめることができない。そんな馬鹿な話があるだろうか。生きるという行為を勘違いしている」
おもしろい発想をする、実に痛快な若者が出てきたものだ。