2012年9月、ポリオ(急性灰白髄炎)の予防接種が経口生ポリオワクチンから、より安全な不活化ポリオワクチンに切り替えられた。米国が導入した1987年から遅れること25年目にして、ようやく実現した定期接種化に日本のワクチン行政の問題点が見て取れる。
日本で予防接種法ができたのは戦後間もない1948年。公衆衛生の向上を図るために結核、腸チフスなど12種類のワクチンを接種することが国民の義務とされ、罰則まで設けられた。ワクチン接種は病気予防ができる反面、まれに身体麻痺などの副作用が出ることもある。当時、こうした健康被害を救済する国の制度がなかったため訴訟が急増。裁判で負け続けた国は、それまで積極的だった予防接種に及び腰になり、1990年代以降は新しいワクチンがほとんど導入されなくなる。そして、1994年、予防接種は国民の義務ではなく、「必要なワクチンは国が接種を勧め、国民は受ける努力をする」と改められた。接種にかかる費用は、努力義務を課した「定期接種」は国が負担するが、本人・家族の希望で受ける「任意接種」は自己負担なので、お金がない人は予防接種を受けることができない。
このとき、救済制度も拡充されたが、定期接種と任意接種とでは損害賠償額にも大きな差がある。たとえば、定期接種の百日咳ワクチンで死亡した場合、現在は4250万円が支払われるが、任意接種のヒブワクチンは国の救済制度の対象外。ヒブワクチンでの健康被害は医薬品メーカーなどが費用を拠出する「医薬品副作用被害救済制度」で賠償されるが、死亡時の補償は約708万円。場合によっては訴訟に発展することもあり、医薬品メーカーが日本でワクチンの販売に二の足を踏む原因のひとつになっている。
先進諸国では、副作用もきちんと理解した上で、「予防できる病気はワクチンを接種し、健康被害が起きたら無過失補償制度(医師に過失がなくても患者に補償金が支払われる)で救済する」ということが国民の合意になっている。日本がワクチン行政の遅れを取り戻すためには、救済制度の整備と国民の理解が不可欠だろう。