確定申告は、おもに自営業者が1年間の所得を確定させて、国に納める所得税を申告するために行なうものだ。サラリーマンは勤務先で行なう「年末調整」で一応の所得税額が決まるので、通常は確定申告する必要はない。ただし、「医療費がたくさんかかった」「家を買った」など特別な事情があった年は、サラリーマンでも確定申告すると税金が戻ってくる可能性がある。こうした節税対策のひとつとして話題になっているのが、2012年度の税制改正で適用範囲が拡大したサラリーマンの「特定支出控除」だ。

 自営業の必要経費は、材料費や交通費など仕事のために実際に必要な金額で、これを売り上げから差し引いて課税所得を決定する。一方、サラリーマンの必要経費は「給与所得控除」と呼ばれ、実際に使った金額に関係なく年収に応じて一律だ。たとえば年収500万円なら154万円だが、仕事で使う経費には個人差があり、実態を反映していないこともある。

 特定支出控除は、仕事で使った必要経費が給与所得控除を超えた場合に収入から差し引けるというものだったが、条件が厳しく実際に利用できる人はほとんどいなかった。だが、今回の改正で適用範囲が広がったため、対象者が広がるのではないかと期待されている。

 まず経費として認められるのは、従来は通勤費、転勤に伴う転居費用、職務に必要な技術・知識習得のための費用や研修費用など一部に限られていたが、今後は仕事で着るスーツや作業服の購入費、仕事のために読んでいる雑誌、新聞や書籍の代金、取引先への接待・交際費なども認められるようになる(ただし65万円まで)。

 控除額は、これまで給与所得控除を超えた額だったのが、今後は給与所得控除の2分に1を超えた額まで引き下げられた。たとえば、年収500万円の場合、これまで仕事の必要経費を100万円使っても特定支出控除の対象にはならなかったが、今後は77万円以上で対象になるので、23万円を収入から差し引けるようになる。所得税率が5%の人なら1万1500円の節税になる。

 特定支出控除の適用拡大は、来年の申告から。申告時にはお金を使った証拠を税務署に提出し、会社の証明を添える必要がある。今後はサラリーマンでも仕事で使ったお金は領収書をもらう習慣をつけたいもの。

 ただし、確定申告で税金を取り戻せるのは、自分が納めた所得税の範囲内なので、すでに住宅ローン減税を受けていて所得税がゼロの人などは特定支出控除の恩恵は受けられない。
 そもそも、一般的な収入のサラリーマンは生活費や子どもの教育費で精一杯で、仕事の経費に回せるお金はそれほどないだろう。特定支出控除の適用が拡大しても、結局、トクをするのは高収入のサラリーマンとなり、所得格差に拍車をかけることも心配される。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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