1930(昭和5)年に作家・酒井潔(1895年生まれ。画の才能があり、英仏の語学に堪能で、西欧の好色文献の収集に励んだ)が著した本のタイトル。出版前の検閲で「公序良俗を乱す」と判断され、発禁処分になってしまった。
長らく国会図書館内でマイクロフィルムの形でしか閲覧することができなかったが、4年前から収蔵資料のデジタル化が始まり、2011年6月からインターネット上に公開されている。「近代デジタルライブラリー」にアクセスすれば無料で読める。
『週刊ポスト』(4/5号、以下『ポスト』)の「発禁本『エロエロ草紙』の淫(みだ)らすぎる図録『大公開』」によると、国会図書館が無料公開している約47万点の古典籍や和図書、雑誌類の中で閲覧数第1位を独走中。文化庁が紀伊國屋書店と組んで行なった配信実験でも、芥川龍之介や夏目漱石、永井荷風を押さえてアクセス数第1位を獲得したのである。
この本が書かれた当時は、「エロ・グロ・ナンセンス」という言葉に風俗文化が象徴される大正デモクラシーが色濃くあった時代だった。カフェやダンスホールが大盛況で、西洋キネマに出てくるような断髪・洋装のモダンガールたちが銀座を闊歩(かっぽ)していた。
この書物を紐解いてみよう。
「表紙には、好色そうなオヤジが、水パイプを愉しむイラストが描かれている。
パイプの上では肉感的な美女が艶めかしく身体をくねらせる。男の顔をよく見てみると、入り組んだ3人の豊満な裸女で構成されており、なかなかのビジュアルセンスがうかがえる。さらに見開き扉には鍵穴があって、上着を脱いで全裸になりつつある西洋美女の写真──。
ページをめくっていくと、詩を掲げたかと思うと、漫画や彩色絵、写真が満載され、風俗レポートに落語、エッセイ、コラム、コントと、さながら雑誌のようなつくりだ。(中略)どの美女も例外なくショートヘアでパーマがかかっている。和装の女性は一人もいない。ヌードはもちろんのこと、着衣でもストッキングにガーターベルト、ハイヒールで白くむっちりした太腿を強調している」(『ポスト』)
酒井は、当時大女優だったグレタ・ガルボを念頭に置いて描いたのではないかと永井良和関西大学教授が推測している。
「ウルトラ」「インポテンツ」「プロポーズ」などの単語も使われ、「全員のスタイルが抜群にいい。だが、乳房のサイズは揃ってAかBカップというところ」(『ポスト』)
永井教授は発禁の理由はタイトルではなく「表紙と扉絵。これが当時としては少々過激」過ぎたという。「エロ」という言葉には最先端の響きがあり「エロを題名にして検閲をパスした書籍がたくさんあります」(永井教授)
『週刊現代』(4/6号)の「『エロエロ草紙』の世界へようこそ」によれば、国会図書館で読める艶本はまだまだあるそうである。『色事の仕方』(戯花情子編/1883)、『衛生交合条例─名・閨房秘書』(西山義忠/1883)、『女の肉的研究』(羽太鋭治/1915)、『秘戯指南』(梅原北明/1929)、『エロ新戦術 成功百パーセント』(尖端軟派文学研究会編/1930)、『性慾生活の変態と正態』(性知識普及会編/1936)。ちなみにこれらの本は発売当時、発禁にはなっていない。
デジタル時代になってもエロは強いことが証明された。私は『週刊現代』編集長在任中に「ヘア・ヌード」なる言葉を生み出し、部数増に貢献した。「エロ」「ヘア・ヌード」の次なる言葉を週刊誌が作り出せていない。「外性器」ではワイセツ感も淫靡な匂いもしないと思うのだが。