60センチあまりにすうっとのびた花茎の先に、青紫色をした10センチほどの花びら6枚が垂れるように花開いている。大田ノ沢(京都市北区)に群生する杜若の可憐(かれん)な姿が、京都に初夏の訪れを告げる。この群生の杜若は天然記念物に指定されている。
アヤメ科の多年草で、日本でもっとも古くから栽培されてきた品種の一つであり、昔は花の汁で布を染める「書き付け花」であったことから、この名称がつけられたという。「杜若」「あやめ」「花しょうぶ」という植物は混同しやすい。太田ノ沢にある説明書きによれば、見分け方は、水辺を好むのが杜若で、あやめは陸地に咲くのでわかる。また、同じく水辺を好む杜若と花しょうぶの違いは、杜若は5月に咲き、それに遅れて6月に咲くのが花しょうぶで、開花時期から区別することができるそうである。花こそ違うが、すっとした葉の形だけでは見分けにくい。
大田ノ沢に残る伝承によると、昔の人は杜若を守るために「池に手を入れると手が腐る」といったとか。古代から咲き続けてきた杜若の群生地・大田ノ沢は、上賀茂神社の神体山・神山(こうやま)のふもとにある泥炭地で、京都が古代には湖であったことを今に残した貴重な場所である。
大田ノ沢に群生する杜若。毎年5月初旬から花が開き始め、中旬には咲きそろう。