安倍晋三総理のアベノミクスがうまくいっていないことを揶揄(やゆ)した言葉。命名者は同志社大学大学院ビジネス研究科・浜矩子(のりこ)教授といわれる。ほかにアベノミス、ダメノミクス、サゲノミクスなどがある。
政権発足以来「株高・円安」を掲げ、デフレ脱却を目指すと大見得を切った安倍総理だったが、ここへきて、三番目の矢と位置づけた成長戦略が期待はずれだったこともあって、株価は下がり続け、円相場も一進一退を繰り返し、心配されていたアベノミクスの“副作用”である長期金利の上昇を招いてしまっている。
「株価は4万円もあり得る」と煽りに煽っていた『週刊現代』(以下『現代』)でさえも「米国発 すごい大暴落がやってくる」(6/8号)、「株価1万円割れ─安倍退陣」(6/29号)と、批判派へと“大転向”した。
私は商学部出身だが、自慢ではないが、未だに複式簿記の借方、貸方がどちらにあるのかさえわからない。したがってアベノミクスを批判できる何ものもないが、最近読んだ雑誌で腑に落ちたのは『PRESIDENT』(7/15号)のジム・ロジャーズ氏(世界的投資家)の「歴史に学べ」という次のような言葉である。
「大昔から、経済的に行き詰まると政治家たちはお金を刷るという手段に走ってきました。けれど歴史を紐解くと、この手の政策が長期的に、いや中期的にさえよい結果をもたらしたことはありません。自国通貨の価値を下げるということは、結局、不健全なインフレを引き起こし、自国民を苦しめることになるのです」
円は半年で2~3割も下落し、日用品は高騰し、生活はますます苦しくなる。アホノミクスなどと笑っていられるうちはいいが、この状態が何年か続くと、もっと酷くなる。そうロジャーズ氏は警告している。
『週刊ポスト』(6/28号、以下『ポスト』)は「安倍政権が高い支持率の陰で進めていたのは、国民の財産を掠め取り、雇用を失わせ、権力の維持のために老後の年金まで奪う『国民背信の政治』」だとして、死亡消費税という、とんでもない計画が進んでいると報じている。
安倍総理のブレーンとして知られる伊藤元重(もとしげ)・東大教授から「社会保障制度改革国民会議」に出されたという。
立正大学法学部客員教授の浦野広明氏がこう説明する。
「国は今後急速に増えていく社会保障費を賄いきれない。現役世代の負担にも限界がある。そこで消費税のように国民全員に死ぬときに財産から一定の税率を“社会保障精算税”として納めさせる。相続人ではなく、死者から取るから死亡消費税なのでしょう」
現在、個人の金融資産は1545兆円。そのうち1000兆円近くを高度成長期を支えた団塊の世代をはじめとする65歳以上の約3000万人が保有しているといわれる。
そこに死亡消費税をかけるとどうなるか。65歳以上の世代が平均寿命を迎える今後15年間で、税率5%なら50兆円。消費税引き上げ後の10%だと100兆円の課税になるという。国民の財産を減らされ、国には途方もない金額が入ってくるというのである。
『ポスト』は「棺桶を掘り返す“墓泥棒”」と難じているが、その通りである。
『現代』(7/6号)は「いよいよやってきた『年金制度廃止』」という大特集を組み、「10年後には70過ぎてから、20年後には80過ぎてから支給」と報じている。日本人男性の平均寿命は79.59歳である。これではほとんどの人間がもらえないことになる。
そんなバカな!とは思わない。現実に日本の年金制度が破綻していることは間違いない。いくら綻(ほころ)びを繕っても限界はある。だからこそ、消費税増税は年金などの社会福祉に限定しなければいけないのに、民主党も自民党もそこをごまかし、大新聞は追及しない。
消費税増税分を社会福祉だけに限定してつかうのなら、北欧並みの20%程度も致し方ないと、私は考える。
だが今の政治家や官僚は口先ばかりで信用ならない。参議院選で問われるべきは、憲法でも株高・円安でもない。この国のこれからの社会福祉の「形」であるはずだ。