コップに注いだ水がいっぱいになると、やがてあふれて滴り落ちるようになる。トリクルダウン(trickle-down)理論は、このコップの水のように、富裕層にお金を回せば彼らはどんどんお金を使うので、やがてその経済効果が貧困層にも波及して、みんなが豊かになれるという考えだ。
アメリカの経済学者ミルトン・フリードマンなど新自由主義者が唱えた経済理論で、大企業や富裕層の税金を引き下げたり、規制緩和をして、彼らの自由な経済活動を後押しする政策がとられる。
今年に入り、日本政府が放った「大胆な金融緩和」、「機動的な財政出動」、「民間投資を喚起する成長戦略」という3本の矢は、まさにトリクルダウン理論にたった経済政策といえるだろう。
しかし、その理論とは裏腹に、アメリカを筆頭に新自由主義的な政策をとった国では、富める者はさらにその富と権力を増大させたが、貧しい者はさらに貧しくなるという貧富の格差が拡大した。トリクルダウンは理論だけで、実際に起こった国はない。
今回、日本政府がとった経済政策でも、株価は上昇し、円安は進んだが、それが庶民の収入アップにはつながっていない。それどころか、生活保護の締め付け、社会保障費の削減など、庶民にはさらに厳しい生活を強いるような政策がとられ、今後ますます貧富の差が拡大することが懸念される。
労働者は消費者でもあるのだから、需要を生み出すためには労働者の収入を増やすような労働法制の見直しが必要だ。しかし、政府が打ち出すのが相も変わらずトリクルダウンの矢では、景気回復の的を射るのは難しい。