7月7日から堺雅人(39)主演、TBS系列で放送されている人気ドラマ。第5話の平均視聴率が29.0%、瞬間最高視聴率は31.9%を記録した。

 堺は映画『武士の家計簿』『鍵泥棒のメソッド』で日本アカデミー賞・優秀主演男優賞を受賞している。妻は女優の菅野美穂。

 池井戸潤(いけいど・じゅん)の小説『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』(ともに文春文庫)が原作で、ドラマ前半の「大阪編」では大手銀行の融資課長・半沢直樹が、粉飾決算で5億円の融資を騙し取った会社社長・東田(宇梶剛士・50)の資産差し押さえをすべく獅子奮迅の活躍をして、上司の支店長も加担していたことを暴いていく。

 半沢と攻防を繰り広げるオネエ言葉の国税局査察部統括官・黒崎を歌舞伎役者の片岡愛之助(41)、支店長の浅野を石丸幹二(47)、半沢を追い込む本店人事部次長の小木曽にお笑い芸人から俳優に転身した緋田康人(49)、東田の愛人に壇蜜(32)と個性的な俳優を配している。

 銀行員を主人公にしたドラマはこれまでも数々あったが、このドラマのように胸のすく爽快感のある銀行員ものはなかった。『週刊文春』(8/15・22号)の座談会で原作者の池井戸氏がこう語っている。

 「この物語は銀行という堅い業界が舞台で一見シリアスですが、じつは中身はマンガなんですよ」

 半沢が銀行に入った動機について、中小企業の経営者だった父親が、半沢が入った大手銀行の前身の銀行に「貸し剥がし」をされて自殺したためとなっているが、原作では死んでいない。このほうが「ドラマとしては分かりやすく効果的だと思いました」(池井戸氏)。

 半沢については「正義の人じゃないんです。清濁併せ呑んで、汚い手を使っても上に行くという人。正義の人より、そんな悪漢のほうが、僕ははるかに魅力的だと思うんです」と、単なる勧善懲悪ドラマではないとも言っている。

 『週刊ポスト』(8/16・23号)ではドラマの裏話を特集している。いくつか紹介しよう。

 第1話に半沢が下町のバルブ工場を視察して、社長へ融資の検討を約束するシーンがあるが、そこに登場して熟練の技を見せる職人は本物だったそうだ。

 小木曽次長が半沢を叱責するとき、怒りとともに机をバンバン叩き続けるシーンが話題になったが、この叩き方は「手は曲げずにまっすぐ叩く」という指示があり、やる方はかなり手が痛いそうだ。

 東田の愛人役の壇蜜は実はカナヅチで、プールに浮いているエアマットに寝そべっている壇を東田がひっくり返すシーンがあるが、その瞬間、怖くてセリフが出てこなかったそうである。

 番組関連グッズも売れ行き好調で、これからは番組での決めぜりふ「やられたらやり返す。倍返しだ!」にちなんだ「倍返しまんじゅう」も発売する予定とか。

 ほかにも「部下の手柄は上司のもの。上司の失敗は部下の責任」「銀行は、晴れた日は傘を差し出し、雨の日には傘を取り上げる」などの名ゼリフが随所に出てくる。

 『週刊現代』(8/17・24号)は半沢の演じる世界は本当で、「銀行は減点主義です。一度でもバツがつくとそれが出世に響く」。住宅ローンを組むと辞めることはないと判断されて「家を買った人は転勤になる」というジンクスがある。同期との成績争いや派閥争いに負けると、40代から「黄昏(たそがれ)研修」と呼ばれるセミナーを受けさせられ、片道切符の出向を受け入れざるをえなくなると、過酷な銀行マンの実態を描いている。

 社内では上司にへつらい、同期の成績に一喜一憂し、外では無慈悲な貸し剥がしをして恨みを買う。それ故に、理不尽な上司の要求に耐えながら、最後にクローズアップされた堺が3D映画のように顔を上げながら上司を睨みつけ、怒りを爆発させるシーンに胸がスカッとするのであろう。『昭和残侠伝』で高倉健演じる花田秀次郎が敵役の悪行に耐えて耐えた後、吹雪の中で抜刀して殴り込みに行く場面を彷彿とさせる。

 我が家の家訓は「国と銀行は信用するな」である。中内功ダイエーの最盛期には無理矢理貸し付け、潰れたときは家族の家屋敷まで取り立ての対象にした“血も涙もない”銀行のあくどさを持ち出すまでもなく、こちらが必要なときには頼りにならないからである。このドラマの視聴率が高いのは、銀行不信がますます高まっている証左なのかもしれない。 


 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
ジャパンナレッジとは 辞書・事典を中心にした知識源から知りたいことにいち早く到達するためのデータベースです。 収録辞書・事典80以上 総項目数480万以上 総文字数16億

ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。 (2024年5月時点)

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る