葛引きにしたおつゆのこと。「のっぺ」は「濃餠」や「能平」と書く。全国的に広くみられる郷土料理なので、「のっぺい」や「のっへい」、「ぬっぺい」、「のっぺい汁」などと、たくさんの呼称がある。京都ではお精霊(しょらい)さん(盂蘭盆(うらぼん)のときに迎える死者の霊魂)にお供えする料理のひとつであり、多くの家庭では、8月16日のお精霊送りを前に、15日の夕食のお膳につけていただくのが習慣になっている。
全国各地で味つけや具材にも少しずつ違いがあり、とり肉や油揚げ、根菜、キノコをふんだんに入れ、甘辛く炊いてあんかけにしたものが一般的である。おつゆというよりも煮物といったほうがよいものもある。京都の「のっぺ」はお盆の料理なので一風変わっていて、小さな里芋、皮を剥(む)いてさなご(種)を取り除いたきゅうり、結び目をつけた干ぴょうを湯がいておき、戻した干し椎茸と湯葉は、細切りにして昆布のおだしで炊いておく。これらに醤油(しょうゆ)で味をつけたら葛で引き、仕上げに土生姜(つちしょうが)をおろして添えるのが、お精霊さんのおつゆである。暑くとも、葛のおつゆから立ちのぼる生姜のよい香りが食欲をそそってくれる。
冬の京都でおなじみのしっぽくうどんは、「のっぺ」や「のっぺい」と献立に書かれていることが多い。これは、うどん、椎茸の甘煮、蒲鉾(かまぼこ)、湯葉、三つ葉を入れ、だしを葛で引いたあんかけうどんで、お盆の「のっぺ」のうどん版といえるものである。