9月7日(日本時間8日)に2020年五輪開催国に東京が決まってしまった。マドリード、イスタンブールとの争いだったが、第1回目の投票でマドリードが落ち、イスタンブールと東京の決選投票の結果、東京が60票を獲得して36票のイスタンブールに圧勝したのである。
今回の3都市にはそれぞれ重大なマイナス点があった。マドリードはスペインの経済問題、イスタンブールは政情不安に隣国シリア問題、東京には福島第一原発事故による放射能汚染水漏れ。中でもIOC(国際オリンピック委員会)総会の直前に発覚した汚染水漏れは、世界中のメディアが大きく報じ、最終プレゼンテーションでも委員から質問が出たほどで、直前予想ではマドリード優勢かと思われていただけに、東京決定にはどよめきが起こった。
『週刊新潮』(9/19号、以下『新潮』)によると、「60票の内訳を推測すると、ポイントとなるのは最終決戦で中国が東京を後押ししたということ。現在、日中関係は良くないですけれど、ピンポン外交などスポーツ界の交流は長いのです」(元JOCの国際業務部参事の春日良一氏)ということらしい。中国が後押ししたことで、中国が経済援助を通じて影響力をもつアフリカも連動して最大12票獲得でき、ヨーロッパの44票のうち半数以上は東京支持に回ったという。
一部に政治利用ではないかという批判もあった高円宮久子さんの“奇跡のスピーチ”(『週刊文春』9/19号、以下『文春』)や、流ちょうなフランス語で聴衆を沸かせた滝川クリステル、練習の成果が出た安倍首相のパフォーマンス英語などが評価されたが、猪瀬都知事のスピーチは“絶望的英語”(『新潮』)と酷評された。
東京都が五輪のために積んできた準備金は4500億円。「東京都は2020年までの国内経済への波及効果を約三兆円と試算。雇用誘発数も全国で約十五万人と算出している」(『文春』)。猪瀬都知事はお台場にカジノを作る構想があり、すでにラスベガスを拠点とするカジノ運営大手が知事に接触を図っていると『新潮』が書いている。
安倍首相はこの機に乗じて消費税増税を決断するという見方が大勢のようだが、気がかりな点も数々ある。『新潮』で城西大学現代政策学部の霧島和孝教授は、前回の東京オリンピックの翌年は「40年不況」と呼ばれる景気悪化に見舞われ山一證券が経営危機に陥り、近年でも00年のシドニーオリンピックのオーストラリア、08年の北京五輪の中国でも、開催翌年は経済成長が鈍化していると指摘している。
88年のソウル五輪以降、開催年より経済成長率が上昇したのはアメリカだけだという統計もある。
さらなる難問は、安倍首相はプレゼンテーションで「汚染水問題は大丈夫」といい切ったが、『週刊朝日』(9/20号)は「港湾口には放射性物質の拡散を防ぐ水中カーテン『シルトフェンス』が張られているが、専門家は水溶性の放射性物質の移動は防げないと指摘している」とし、首相の発言が招致欲しさの「ハッタリ」だったとすれば、国際社会から強い批判にさらされることになると警告している。
さらなる難問は天変地異である。『週刊ポスト』(9/13号)は20年に首都直下型地震が東京を襲う危険があると報じた。防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏がこう話す。
「貞観(じょうがん)地震の9年後に、関東大震災クラスの南関東地震が起きている。史実は、震災の9年後にあたる2020年に首都直下型の地震が起きる可能性を示しているのです」
さらに『ニューズウィーク日本版』(9/17号)は世界文化遺産に登録された富士山に噴火の心配があると特集している。
7年は長い。それまでに五輪の施設だけではなく、これを機に徹底した防災都市建設を進めるべきであること、言を俟たない。
東京五輪は不要と唱えている評論家の大宅映子氏が『新潮』でこう言っている。
「どうせやるのなら、せめて景観を美しくするようなオリンピックであってほしいと願います。でも無理でしょうね……。前回の五輪は17、18歳の若いお嬢さんが綺麗に着飾った状態だった。でも、今の日本は80のお婆ちゃん。厚化粧したって、ちっとも色っぽくないでしょうから」
私がまだ生きていたら、五輪開催中は海外へ逃れて、自然の豊かなホテルでテレビ観戦しようと決めている。