世界遺産には「文化遺産」と「自然遺産」(さらに両方を兼ねた「複合遺産」)がある。姫路城や厳島神社などは「文化遺産」、屋久島や知床などは「自然遺産」だから、2013年に登録された富士山は「自然遺産」に寄った印象だが、実際は「文化遺産」だ。ゴミなどの環境保全の不備が影響しているが、結果として「適切な選択」であったようにも感じる。国内でも海外でも、「フジヤマ」はまさに「ニッポン」を象徴する。実際の富士山とは別に、「イメージとして創造された富士山」があるのだ。
しかし、現実の富士山は険しい山だ。身近な存在として甘く見ていると、悲劇が待っている。実際、「たまたま気が向いて」たいした準備もなく登山する無鉄砲な者があとを絶たない。本来は山小屋において休息をとるべき山なのに、それをせずに頂上へ向かおうとすることを「弾丸登山」という。
じつは世界遺産の登録によって2013年(7月1日~8月31日)の富士登山者が増えたわけでない(マイカー規制強化などによって、前年比2.5%減となった)が、全国的な注目度は増し、この問題もクローズアップされるようになった。未明に五合目からスタートし、ご来光を拝み、すぐに下山するというプランは、登山経験者でなくとも有名だ。けれども、富士山はもともと二日間かけて登ることが推奨されている。登山者の30%が弾丸登山だという推計もある(山梨県のホームページによる)が、現実の「フジヤマ」は、イメージほど甘くないことを知っておくべきだ。