公的な老齢年金は、物価や現役世代の給与の変動に応じて、毎年、改定されており、物価が上がれば年金額も上がり、下落すれば下がる。これが「物価スライド制」という仕組みだ。
いうまでもなく、これまでの日本経済はデフレ傾向だったため、本来ならその時々の物価に合わせて年金額も引き下げられるはずだった。しかし、高齢者の反発や票離れを恐れた時の政府は、特例法を出して2000~2002年度の3年間、年金額の引き下げを行なわずに、年金額を据え置いてきたのだ。
そのため、現在の受給者は、本来よりも2.5%高い特例水準の年金を受け取っており、これまでに払い過ぎた年金額の累計は7兆円にも及ぶ。
だが、この特例水準を解消する法律が昨年11月に成立したため、今年から公的年金の支給額が引き下げられることになったのだ。ただし、いきなり2.5%引き下げると、高齢者の生活に影響を与えるため、今年10月の引き下げは1%のみ。自営業などで40年間国民年金の保険料をすべて支払った場合、これまで年間78万6500円受け取っていた老齢基礎年金は、77万8500円になる。実際に減額されるのは、12月に支払われる10、11月分からで、ひと月あたりの減額は666円だ。
その後、物価や給料の変動がなければ、2014年4月にさらに1%、2015年4月に0.5%の引き下げが行なわれる予定。3年間で引き下げられる年金額の合計は、自営業など国民年金受給者で年間約2万円、会社員など厚生年金受給世帯は夫婦で約7万円(現役世代の平均月収36万円で、夫が40年間厚生年金に加入、妻が専業主婦の場合)になると試算される。
日本の年金は、現役世代が納めた保険料で高齢者への給付を行なう「賦課方式」だ。保険料を支払う現役世代が少なくなれば、高齢者の年金額も減らさざるをえない。
年金の引き下げは高齢者の生活に直結する大問題だが、一方で高齢者の生活を支える不可欠な存在でもある。年金破たん論を煽るメディアや研究者もいるが、年金制度は「いかに持続可能なものにしていくか」という前提で問題解決を図るしかない。
今回の年金引き下げは、年金制度を持続可能なものにし、将来の人々も給付を受けられるようにするための第一歩だ。自らも生活防衛をしつつ、年金制度の行く末を見守りたい。