洗濯するときに使う柔軟仕上げ剤は、衣類を柔らかく洗い上げることを目的としたもので、最近は香りのよさをアピールした商品が増えている。

 きっかけは、2000年代後半に米国製のダウニー(Downy)など強い香りの外国製柔軟剤がブームになったことだ。以来、国内でも芳香性を重視する商品が増え、販売金額も2008年の618億円から2012年の715億円へと成長している。

 だが、こうした柔軟剤の強い香りが原因とみられる頭痛、めまい、吐き気などの症状を訴える人も増えている。

 国民生活センターによると、2008年度は14件だった「柔軟仕上げ剤のにおい」に関する相談件数は、2012年度は65件に増加。2013年度は前年同期と比べて増加傾向にある。

 相談内容は、自分が柔軟剤を使用したことで体調不良を訴えたものもあるが、多いのは「隣人の洗濯物のにおいがきつ過ぎて頭痛や吐き気がある」「飲食店で柔軟剤のにおいのする店員に運んでこられると気持ち悪くなる」など、他人が使用した柔軟剤による相談が74%を占めている。

 こうした相談が寄せられるのは、たんににおいに対する嗜好の問題だけではなく、「化学物質過敏症」という深刻な病気の存在がある。

 同センターが実施した商品テストでは、室内干しをした際の室内の総揮発性有機化合物が、柔軟仕上げ剤を使わない場合は1立方メートル約20μgなのに対して、強い香りがする柔軟仕上げ剤を使用すると約70~140μgに上昇している。

 化学物質過敏症は、何らかの化学物質を大量に、または繰り返し曝露することで発症すると考えられており、今回、国民生活センターが発表した柔軟剤のにおいにも何らかの影響があることが考えられている。

 化学物質への感受性は個人差が大きく、同じ環境で過ごしていても発症しない人もいるため、なかなか周囲に理解してもらえない病気でもある。

 国民生活センターは、自分には快適なにおいも、他人には不快に感じることもあることを認識してほしい、と配慮を促す。だが、化学物質過敏症は、他人事ではない。花粉症と同じように、昨日までは何ともなかったのに、ある日突然発症する可能性がある病気だ。

 柔軟剤の使い過ぎは、すでに化学物質過敏症で苦しんでいる人だけではなく、将来の自分や家族を苦しめるかもしれない。適切な使用を心がけたい。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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