新書やビジネス書のタイトルには、使っておきたい「魔法のことば」がある。たとえば、「力(ちから・りょく)」。勝間和代(かつま・かずよ)の『断る力』、池上彰(いけがみ・あきら)の『伝える力』、阿川佐和子(あがわ・さわこ)の『聞く力』……、いずれもベストセラーだ。1998年に赤瀬川原平(あかせがわ・げんぺい)の『老人力』が売れて以来、「力」はまさに「神通力」を発揮し続けている。このような「ことば」にはほかにもいろいろとあって、いまどきのトレンドは「9割」であろう。
その先駆けは、2005年に刊行された竹内一郎(たけうち・いちろう)の新書『人は見た目が9割』だ。論考には賛否両論あったが、「見た目」ですべてを片づけた「度胸」は、一定の読者に受け入れられたといえる。その後も、小幡英司(おばた・えいじ)の『営業は準備が9割!』など、ビジネス書を中心として「9割本」がコンスタントに世に出た。さらには、コピーライターの佐々木圭一(ささき・けいいち)が書いた『伝え方が9割』が、2013年を代表する売れ行きを記録。負けじと「本家」の竹内氏も、『やっぱり見た目が9割』なる続編を刊行している。
実際読んでみると、「9割」は少し言いすぎでは……という印象を受ける内容も多いが、このようなタイトルをつけるのはほとんどの場合、著者本人ではないだろう。出版社の編集(もしくは営業)なのである。多少は誇大表現でも、言い切ったほうがわかりやすい。政治や経済など何事も不安定な時代に、明確なよりどころが欲しい買い手の感覚をうまく反映しているといえる。