母乳は、赤ちゃんの成長に不可欠な栄養素で、とくに重要なのが産後1~2週間以内に出る初乳だ。

 生まれたばかりの赤ちゃんは、自分で免疫成分を作ることはできない。腸に悪影響のある病原菌が体内に入っても、それを跳ね除ける力が足りないので、初乳に含まれる免疫成分を飲むことで感染症になるのを防いでいる。そして、母乳を飲むことで自然と腸が整えられて、栄養を吸収できるようになっていく。

 とくに早産で生まれた2500グラム未満の低出生体重児はさまざまな病気のリスクが高まるため、できるだけ早く母乳を与える必要がある。しかし、母親が病気をしていたり、早産で母乳が出ないなどで、赤ちゃんに初乳を飲ませてあげられないこともある。

 そうしたケースに対応するために、別の女性に母乳を提供してもらうのが「母乳バンク」だ。欧米やアジア諸国では広く利用されており、健康状態など一定の基準を満たした女性の母乳を集め、殺菌処理などを行なったあとで赤ちゃんに与えられる。

 これまで日本では母乳バンクは存在しなかったが、低出生体重児の命を守ることを目的に、2013年10月に昭和大学の小児科に初の母乳バンクが誕生。5年以内にNPO法人化して普及を目指すという。

 母乳の提供者は、同大学病院で出産した女性で、早産でも母乳が出る人に協力をお願いしている。また、低温殺菌して使うなどで母乳の安全性を担保している。

 自分の子どもが他人の母乳を飲むことに抵抗を感じる人もいるようだが、高齢出産、不妊治療の増加によって低出生体重児は増えている。母乳バンクの必要性が高まるいま、市民に正しい理解が広まるような情報提供を期待したい。


 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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