安倍内閣が日本版国家安全保障会議(NSC:外交・安全保障政策の司令塔)とセットで今臨時国会中に成立させようとしている「悪法」である。
これまでもこれに似た法律をつくろうという目論見は行なわれてきた。1985年に国家秘密に係わるスパイ行為の防止に関する法律案(通称スパイ防止法)が議員立法として提出されたが、審議未了で廃案となっている。
2011年にも国家秘密の管理体制強化を目指す「秘密保全法」が検討されたが、国会提出は見送られた。だが、今回の特定秘密保護法はこれまでとは比較にならないほど厳しく広範囲に及ぶもので“平成の治安維持法”とまでいわれているのである。
問題点を列挙してみよう。外交・軍事だけではなく、行政機関の長が自らの所管事項の中で「特定秘密」と認定すれば、TPPから原発情報まで恣意的に、国民に知られると“都合の悪い情報”を隠すことができてしまう。
特定秘密を取り扱う者は、適正かどうか徹底的にプライバシーまで調べられた職員などに限定される。特定秘密に指定された情報は、議員も国会で質問ができない。
特定秘密情報を漏えいした者はもちろん、その情報を得ようと接触したり、煽動した者も処罰対象となり、最長懲役は10年である。
特定秘密をつかんでいなくても、誰かと特定秘密を得ようと話し合っただけで処罰される「共謀罪」も盛り込まれる。特定秘密に指定された秘密は5年を限度とするが、30年まで更新が可能。さらに内閣の承認があれば延長できるから、国民に知らされないまま密かに破棄されてしまうことも十分にありえる。
この法律ができれば情報開示法はまったく空文化し、国民の知る権利は蔑ろにされ、裁判を起こしたとしても、裁判官も特定秘密自体を確認できない。
当然ながら、この法案が国民主権を侵す憲法違反であり取材・報道の自由への脅威ととらえ、多くの学者やメディア関係者が反対声明を出している。その中の一人、奥平康弘(おくだいら・やすひろ)東大名誉教授は『中日新聞』(10/19)でこう語っている。
「国民主権が大きく崩される。(中略)法学者たちが声を上げるのは、かつてない恐ろしさがあるから。戦前で言えば、戦争に突き進むことになった国家総動員法のように、『あれが歴史の転換点だった』とならないようにしなければいけない」
しかし、この重要問題を報じる週刊誌は少ない。危機感が希薄で時代に鈍感だと断じざるを得ない。わずかに「特定秘密保護法の“ずさんさ”」(『週刊朝日』11/8号)と「日本版NSC(国家安全保障会議)の大愚策機密情報制するのは外務省か」(『サンデー毎日』11/17号、以下『毎日』)が目につくだけである。
『毎日』で軍事ジャーナリスト・神浦元彰(かみうら・もとあき)氏は、NSCができても軍事情報はダダ漏れになると指摘している。
彼によれば、今年5月、元米中央情報局(CIA)職員で米国家安全保障局(NSA)勤務経験もあったエドワード・スノーデン氏が、NSA の情報収集をメディアに告発したし、2010年11月には、内部告発サイト「ウィキリークス」に米国の機密文書が公開された。
漏えいしたのは陸軍上等兵のブラッドリー・マニング被告。今年8月の米軍事法廷で、被告には35年の禁固刑が言い渡されたが、軍や警察の機密漏洩罪をいくら厳しくしても、高い知識やモラルを持っていて、国民の不利益になる情報を公にする人間は後を絶たないはずであるという。
だが、翻って日本を見た場合、公務員はもちろんメディアにいる人間たちの中に、それほどの良識と実行力を持った者がいるだろうか。日本版NSCと特定秘密保護法が成立すれば、日本にはどうでもいい情報だけが溢れ、国民には何も知らされないまま、日本はアメリカの言いなりに「集団的自衛権」行使ができる国に変容し、いつか来た道を辿ることになりはしないか。心底心配である。