京都では大根を「おだい」という。「お大根」という丁寧な呼び方の「根」だけを省略した話し言葉である。鴨川東岸にある聖護院(しょうごいん)地域や、四条通(しじょうどおり)の中心部より南側にある壬生(みぶ)などの地域は、江戸時代は野菜の名産地として知られていた。当時、熱心に品種改良が試みられていたため、たくさんの特産野菜が受け継がれている。
「おだい」の品種だけでも、有名な聖護院大根、11月に紹介した茎大根(長ぐき)、奇妙にくねった形の青味大根、そばの薬味にする丸い辛味大根、塩漬け用の桃山大根、葉が緑色をした時無し大根など、現在でも知られているものが多い。摺りおろしてよし、漬けてよし、煮(た)いてよし、蒸してよしと、冬の京料理は、旬の「おだい」なしには語れない。「おだい」はどんな料理にしても食あたりすることがないので、当たらない(売れない)という意味で、大根役者ということばができたそうである。ついでにいうと、「おこうこ」や「香の物」とは、京都では大根の漬け物をさすことは意外に知られていない。
12月9~10日は、了徳寺(右京区)で大根焚き(だいこだき)があり、参拝客に振る舞われる。浄土真宗の開祖である親鸞上人をもてなした、という謂われをもとにした行事である。また、12月7~8日は通称・千本釈迦堂、大報恩寺(上京区)でも大根焚きがある。この大根焚きを食べると、中風などの病気にならないといわれ、大鍋でもうもうと湯気を立てて「おだい」を煮く様子は、師走の京都の風物詩になっている。