リアル(現実)の生活が充実しているのは「リア充」。ここから発想して、多くない収入の中でそれなりに生活を充実させるライフスタイルは「プア充」と呼ばれる。宗教学者で作家の島田裕巳(しまだ・ひろみ)氏の著書『プア充 ―高収入は、要らない―』(早川書房)で注目された。この考え方については反発もある。ややこしいのは、実際に「身の丈に合った暮らし」を唱える有識者は、少なくとも「プア」より余裕のある暮らしをしているように見える、という点だろう。実際の懐具合はともかく、話題の本を書けている時点で一定収入はあるはずなので、なかなか「説得力」の面が難しい。
ただ、直観的な反発を誘いかねないところはさておき、確かに高収入はいいことばかりではない。自分の時間がなくなって、出世で昇給するにしても労働時間に見合っているとは限らない。そこそこの収入でも、工夫によって生活を充実させようという、人間的なたくましさを説いているのだとは思うが、実際に「プア」な身からすれば納得のゆかぬ話かもしれない。
そもそも、「リア充」「プア充」という言葉が注目されること自体、「よそさまの生活が気になる」時代だと言わざるをえない。いまはブログやSNSを介して、他人の「外食・旅行などのお金のかけ方」や「子育て」「家の中」まで簡単にのぞける。ならば、どうしてもわが身と比較してしまうわけだ。ヨソはヨソと精神的な自由を得るのは、なかなか難しいことである。