棒鱈は大きな真鱈を材料に、頭と背中、内臓を取り除き、背側から三枚に下ろしたものを日干しにしている。京都で鱈といえば、干物の棒鱈のほうが有名なくらいで、棒鱈煮は正月のお重に欠かせない料理の一つである。昔は日本海航路の北前船(きたまえぶね)で、昆布などの干物と一緒に運ばれてきた。

 材料となる鱈は、雪の降る時期に獲れる魚なので魚偏に雪と書く。生魚は淡泊で癖もほとんどないので、繊細な味の出汁と具材を合わせてちり鍋などにするのが定石である。旬のものを寒鱈と呼んで珍重している地域もある。しかし、寒い季節といえども油断できないほどアシの早い魚で傷みやすい。そのため、昔から干物としての利用も盛んであった。

 干物の棒鱈は、淡泊な鱈とはまるで違う。半身状態の姿は流木のようであり、とても堅く、風味も刺激的である。この干物の中が柔らかくなるまで、毎日水を交換しながら戻すのに一週間はかかる。さらに、調理をはじめてからも、番茶でゆでこぼししながら臭みを取り、柔らかく仕上げるというこつがいる。火にかけては冷まし、時間をかけて煮込むと、こくと適度に歯ごたえのある独特の食材になっている。

 この棒鱈煮を海老芋と炊き合わせたのが京名物「芋棒」である。百年前に芋棒を考案した平野家本家は、円山公園の一角にいまも営まれている老舗である。


鮮魚店で正月用にまとめて戻している棒鱈。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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