椿餅は2月ごろに食べられる季節菓子である。白い餡餅(あんもち)に、つやつやとして厚い椿の葉を組み合わせている、独特の姿を記憶している人は多いだろう。粳米(うるちまい)からつくった道明寺糒(どうみょうじほしい)のぷつぷつとした生地で餡を包み、俵の形に丸めたものを椿の葉二枚で挟んだものである。餅には上新粉が使われる場合もある。

 椿餅は紫式部の『源氏物語』や『うつほ物語』(作者不明)に登場し、千年以上前に平安貴族の食べている様子が記述されている。『源氏物語』では殿上人が蹴鞠(けまり)の後の宴会で、梨や柑橘類などとともに食す場面として描かれている。当時は「つばいもちひ」と称し、生地にツタの汁を煮詰めてとった甘葛(あまづら)という、ほの甘い汁を練り込んだ餅菓子であった。江戸中期にまとめられた『類聚(るいじゅ)名物考』には、「干飯(ほしいひ)を粉にして丁子(ちょうじ)を粉にして、少し加えて甘葛(あまづら)にて固めて、椿の葉二枚を合せて包みて、上をうすやうの紙を、ほそき壱分(いちぶ)ばかりに切りたるにて、帯にして結びてたるる也(なり)」(『日本大百科全書』「椿餅」の項より)とある。

 平安時代にはまだ小豆の餡がなかったので、椿の葉を用いた餅菓子の姿は似ていたかもしれないけれど、味のほうは、現代のものとはずいぶん違う感じであったろう。日本にもっとも古くからある餅菓子といわれており、現代の桜餅や柏餅の原型にもなっている。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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