テレビが大きな曲がり角にきている。安倍晋三首相が自分の意のままに動くことを期待してNHKに送り込んだ籾井勝人(もみい・かつと)会長のメディア人としてあるまじき言動が厳しい批判に晒されているが、時の政権の広報機関に堕した公共放送ばかりでなく、視聴者を蔑ろにして金儲けに狂奔する民放は、それ以上の危機的状況にあると『週刊ポスト』(2/28号、以下『ポスト』)が特集している。

 かつてテレビは「茶の間の主役」であり「国民的娯楽」だった。私の家にテレビが入った日のことをいまでもハッキリ覚えている。「ダイアナ」の大ヒットを飛ばしたポール・アンカが初来日した年だから1958年、私が13歳の時である。授業が終わると家に飛んで帰り、居間にデーンと置かれたテレビのスイッチを入れ、まだ放送時間になっていないため走査線だけが流れる画面を見ているだけでとても“幸福”だった。

 力道山のプロレス、長嶋茂雄の天覧試合サヨナラホームラン、東京オリンピックに感動し、『パパは何でも知っている』『ローハイド』をはじめとする数々のアメリカのドラマによってアメリカへの憧れをかき立てられた。

 『ポスト』が書いているように「戦後の市民参加の民主主義を支えたのも、テレビだった」ということもできるかもしれない。そのテレビがつまらなくなっただけではなく、スポーツも政治も娯楽も全部ダメにしたと『ポスト』は主張しているのだ。

 ソチ五輪の中継にもそれが表れていたという。五輪に出場する代表選手全員をメダル候補のように取り上げ、煽るだけ煽って、高梨沙羅や浅田真央のように負ければ、お涙頂戴のヒューマンドラマに仕立て上げる。

 外国選手の素晴らしいパフォーマンスを見せ、スポーツの楽しさを伝えるのではなく、「日本人がメダルを獲るかどうか、その一点のみを追うようになっていった」(『ポスト』)のである。

 先日行なわれた都知事選挙が盛り上がらなかったのも、テレビが中立・公正を建前にして自主規制した結果、反原発か再稼働かという重要テーマを各放送局が正面から取り上げず、議論が深まることなく終わったからだ。

 NHKなどはラジオで原発について話す予定だった大学教授に、都知事選の最中だからとコメントの中止を求めていたことが明らかになった。

 行き過ぎた自主規制はドラマの現場にもあると、制作会社の現役演出家がこう話している。

 「たとえばドラマで銀行強盗のシーンを撮るとする。発砲したり、人を殺すのはOKなのに、クルマで逃走するときにはシートベルトを着けないといけないし、バイクならばヘルメットは要着用。赤信号では必ず止まる決まりになっている。その理由は、犯罪はフィクションとして受け止めるが、交通違反はリアルすぎるというよくわからないものだ」

 笑える話であるが、これでドラマがおもしろくなるはずはない。視聴者からのクレームを恐れているわけだが、元TBSアナウンサーの生島ヒロシ氏は、昔はそうしたクレームに対して「そんなに文句あるなら観るな」といったスタッフがいたそうだが、いまではそんなことは考えられないという。

 テレビ離れが進み視聴率が低迷するためコストカットも半端ではない。タレントやお笑い芸人をひな壇にズラーッと並べるバラエティ番組も、いまはホスト1人か2人で回すのが主流。

 番組内でスポンサー企業の人気商品ランキングや工場視察、製品開発の裏側をレポートするのが花盛りだが、自局にCMを出してもらう“呼び水番組”だから、そこでは悪口は言わないという厳然としたルールがあるそうだ。

 だが、テレビは斜陽産業といわれながらも決算は絶好調のようだ。テレビ朝日は前年より売上高117億円アップの2655億円、日本テレビも前年比117億円増の3381億円。

 TBS社員は自嘲的に「うちは不動産屋だから」というが、ほかのテレビ局も本業よりも、不動産業やDVD、映画化、通販業、自社の敷地内を使ったイベント事業で収益を得ているのだ。

 『ポスト』は、公共の電波を使って自社の通販やイベントの宣伝を流して莫大な利益を上げているのはおかしいと批判する。しかも各局が支払っている電波利用料は格安なのである。12年度の利用料はNHK17億9900万円、日テレ4億2658万円、フジテレビ3億9354万円。売上高から比較すると0.2%前後にしかならない。

 こうした美味しい蜜を吸い続け、報道機関としての役割を蔑ろにしてきたテレビに明日はないと『ポスト』は結んでいる。

 最後に、私も出たことがあるテレビ朝日『ニュースの深層』(CS、今月末で終了)の村上祐子アナからのメールの一部を紹介しよう。

 「テレビが置かれている状況を眺めておりますと、己の力量はさて置き、じっくりと本質に迫れる貴重な番組だと思っておりましたので、とても残念です」

 いまやテレビは単なる「見せ物小屋」産業でしかなくなってしまったのだ。


元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 今週は割烹着のリケジョ美女、小保方晴子(おぼかた・はるこ)さんについての話題が3本。   
 普通の細胞を酸性の液に漬けるだけで、どんな臓器にもできる万能細胞が生まれるという「世紀の大発見」は、彼女がカワイイこともあってメディアが飛びつき、世界的な話題になった。
 科学誌『ネイチャー』に掲載され、世界から賞賛を浴びていたが、ネットでは早くから、実験条件が異なるにもかかわらず酷似した画像が出ている「画像使い回し疑惑」が指摘され、捏造ではないかという噂まで出ているのだ。
 これについて週刊誌の取り上げ方がそれぞれ違うのが興味深い。

第3位 「安倍総理面会もドタキャン STAP細胞 小保方晴子を襲った捏造疑惑」(『週刊文春』2月27日号)
 やっかみ半分の中傷かと思っていたら、どうもそうとばかりはいえないと『文春』が取り上げている。
 小保方さんの共同研究者・若山照彦教授(山梨大)によると、本人は画像の使い回しを認めているという。
 「十四日に本人が泣きながら、『ご迷惑をおかけすることになるかもしれません』と電話をしてきました。ただ、『こんなことで研究そのものまで疑われるのは悔しい』とも話していた。
 もちろん改ざんが事実ならよくないことです。ただし、指摘を受けた箇所は、研究の本筋とは離れた些末な部分であり、研究そのものの成果には影響しません。彼女も、ネイチャーから細かい指摘を受けて時間に追われていたのでしょう。既に彼女はネイチャーに修正版を提出し、認めてもらう方向で進んでいます」

第2位 「小保方晴子さんにかけられた『疑惑』」(『週刊現代』3月8日号)
 『現代』もやや懐疑的。
 「素人目に疑問なのは、学会では論文を『間違えました、直します』と言って許されるのかという点だろう」(『現代』)
 そこでカリフォルニア大学デーヴィス校医学部で再生医療の研究に携わる、ポール・ノフラー准教授に聞いている。
 「論文に、誤植などの小さな間違いは比較的よくあります。
 しかし画像の混同といった手違いは大問題であり、過去には論文撤回の理由になったこともある。本当に全体の結果に影響しないか精査しないといけません」

第1位 「小保方『STAP細胞』を潰せ!『捏造疑惑』噴出で得する人々」(『週刊ポスト』3月7日号)
 これらを読むと何やら“?”がつく研究のように見えるが、『ポスト』はそんなことはないと、小保方さんに代わって反論をしている。
 『ポスト』は、とにかく現段階でほぼ確定しているのは、補足論文に画像の掲載ミスがあったということだけだから、調査中だという理研や『ネイチャー』の報告が待たれるが、どの疑惑も「大勢に影響なし」といえそうなのであるとしている。
 また、これだけの騒動に発展した背景には、一定の「アンチ小保方勢力」の存在が見え隠れするともいっている。

 さてこの騒動、どういう結末を迎えるのだろうか。

   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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