『週刊現代』(3/29号、以下『現代』)は、超リッチなエリート層と、地元に住みほどほどの生活に満足感を覚えるマイルドヤンキー層という新しい「階級」に日本は分断されつつあるという特集を組んでいる。
『現代』によれば、年間の学費が300万円以上もするスイスや英国の寄宿舎を出て、米国の大学で経営学を学び、モナコ・グランプリや英ウィンブルドンのテニス大会などのイベントに顔を出し、資産はシンガポールなどの租税回避地を利用する「新しい種族」が日本でも生まれつつあるという。
だが、IT企業の経営者(45)は相続税逃れのため3年前にシンガポールに拠点を移して生活しているが、子どもの同級生の親たちはヘッジファンドや投資銀行で荒稼ぎしている連中が多く、子どもの誕生会にサーカスを呼んだりするため、わが子からは「うちは貧乏なんだよね?」といわれているという。上には上がいるということである。
その一方で、千葉に住むサーファーショップの店員(36)は、月給手取りで20万円弱だが「仲間と波があればそれでいい」と、いまの生活に満足しているそうだ。
アメリカと英国の大学の共同研究では「年収3万6000ドル(約360万円)を超えると幸福度は下がり始める」という結果が出ているという。さらに慶應大学大学院・前野隆司(たかし)教授によると、高い年収や高級ブランドの服や車など「地位財」という他人と比較可能なものによる幸福は長続きせず、他人が持っているかどうかに関係なく幸福をもたらしてくれる「非地位財」は長続きする。自分の好きなことや身の回りの小さな幸せを大切にという、なんの新しさもない内容ではある。
ちょっぴり目新しいのは、東京などには見向きもせず、地元を離れずに仕事をしながら、家族や友達を大事にして、週末には大型ショッピングモールや郊外型アミューズメント施設へ行くことを楽しみにする20代から30代のマイルドヤンキーという新しい階級が、日本のサイレントマジョリティになりつつあるという指摘である。
博報堂の原田曜平氏によれば、彼らは一般の若者たちより所得が低いのに消費意欲が高く、「若者が離れたとされる自動車やバイク、酒、タバコ、パチンコなどに興味があり、カネを使う」そうだ。原田氏はこういう。
「彼らは積極的に地元に残りたがるのです。『成り上がり』の願望をそもそも持っていない。ここが昔のヤンキーと最も違うところです。(中略)
中学生時代から通う近所のファミレスで、30歳になっても40歳になっても、同じメンバーでたむろしていたい。それがマイルドヤンキーの理想の人生なのだと思います」
一昔前にいわれた若者の「Uターン」とは違う。はじめから都会なんぞに目もくれず、地元に根を生やし家族や友達と楽しく生きていこうという若者が増えることは歓迎すべきことではある。
大学卒の若者を「正社員」という甘い餌で釣って長時間労働を課し、過重な責任を負わせ、パワハラなどで精神的に追い詰め、3年も経たないうちにボロ雑巾のように捨てるブラック企業が増えていることにも関連しているのであろう。
昔、一億総中流時代といわれた。それが崩れ貧富の格差が年々甚だしくなり、1%の富裕層のためだけに政治が行なわれ、都会の若者たちは夢を見ることさえかなわない時代になってしまった。
そうした中央集権国家に寄りかからない新しい層の台頭は、この不公平な世の中に対する“抵抗”の、彼らなりの表し方なのかもしれない。
元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
今週は企業ものといわれるジャンルを取り上げてみた。
第1位 「ユニクロがパート・アルバイト1万6000人を『正社員化』それっていいことなの?」(『週刊現代』4/5号)
第2位 「孫と柳井、10年後に生き残るのはどっちだ?!」(『週刊ポスト』4/4・11号)
第3位 「あなたの税金が大企業の『ベア』に化けた」(『週刊現代』4/5号)
3位。『現代』は大企業がベースアップを認めたのは法人税減税を見越してのことで、結局われわれの税金が使われるだけだと批判している。
「3月12日に、安倍首相の諮問機関である政府税調で、法人税改革を議論するワーキンググループが初会合を開きました。(中略)
3月12日というのは企業側がベアの回答をする集中回答日。まさに企業の賃上げ姿勢を見届けながら、法人税減税の幕が開かれた形です」(税調関係者)
法人税減税については1パーセントの減税で5000億円近い税収が失われるリスクがあるため自民党内ですら慎重論があるが、政府税調は「減税ありき」の議論を展開することが決定的だと『現代』は書いている。これで景気がよくなるわけはない。
2位の『ポスト』の記事では、ソフトバンクの孫氏とユニクロの柳井氏のどちらの企業が10年後に生き残っているのかを論じている。
企業戦略、後継者問題、どれをとっても同じ課題を抱えているため、結局この勝負、痛み分けのようだ。
今週の1位はパート、アルバイト1万6000人を正社員化すると発表したファーストリテイリング(FR社)に疑問を呈している『現代』の記事。
社員化には落とし穴があるという。現在、現場の店長には「売り上げの増大」と「人件費の管理・削減」という難題が要求されている。FR社は「正社員化」される人々が納得できるような賃金アップをするつもりはあるのだろうかと問いかけている。
また、賃金がある程度上がったとしても、それに見合わないほどの過重なノルマが課せられるようなことになっては「幸せ」とは到底言えないだろうともいっている。
ブラック企業被害対策弁護団の代表を務める、弁護士の佐々木亮氏がこう語っている。
「現状の報道だけ見て、『立派な判断ですね』とは言えません。正社員化によって生み出されるのは、残業やノルマが増えただけの『名ばかりの正社員』という可能性もあるからです。
柳井さんは正社員化の方針と同時に、『販売員には今の効率の2倍を求めます』と述べていますね。これまで店長が担っていた責任が、新たな正社員にも降りかかり、労働強化が行われることが容易に想像できます。そもそもユニクロは長年、長時間労働が問題視されてきました。その是正が同時に図られるのでしょうか」
ブラック企業というありがたくない称号を捨て去るためには、正社員化だけではダメだということである。
『現代』によれば、年間の学費が300万円以上もするスイスや英国の寄宿舎を出て、米国の大学で経営学を学び、モナコ・グランプリや英ウィンブルドンのテニス大会などのイベントに顔を出し、資産はシンガポールなどの租税回避地を利用する「新しい種族」が日本でも生まれつつあるという。
だが、IT企業の経営者(45)は相続税逃れのため3年前にシンガポールに拠点を移して生活しているが、子どもの同級生の親たちはヘッジファンドや投資銀行で荒稼ぎしている連中が多く、子どもの誕生会にサーカスを呼んだりするため、わが子からは「うちは貧乏なんだよね?」といわれているという。上には上がいるということである。
その一方で、千葉に住むサーファーショップの店員(36)は、月給手取りで20万円弱だが「仲間と波があればそれでいい」と、いまの生活に満足しているそうだ。
アメリカと英国の大学の共同研究では「年収3万6000ドル(約360万円)を超えると幸福度は下がり始める」という結果が出ているという。さらに慶應大学大学院・前野隆司(たかし)教授によると、高い年収や高級ブランドの服や車など「地位財」という他人と比較可能なものによる幸福は長続きせず、他人が持っているかどうかに関係なく幸福をもたらしてくれる「非地位財」は長続きする。自分の好きなことや身の回りの小さな幸せを大切にという、なんの新しさもない内容ではある。
ちょっぴり目新しいのは、東京などには見向きもせず、地元を離れずに仕事をしながら、家族や友達を大事にして、週末には大型ショッピングモールや郊外型アミューズメント施設へ行くことを楽しみにする20代から30代のマイルドヤンキーという新しい階級が、日本のサイレントマジョリティになりつつあるという指摘である。
博報堂の原田曜平氏によれば、彼らは一般の若者たちより所得が低いのに消費意欲が高く、「若者が離れたとされる自動車やバイク、酒、タバコ、パチンコなどに興味があり、カネを使う」そうだ。原田氏はこういう。
「彼らは積極的に地元に残りたがるのです。『成り上がり』の願望をそもそも持っていない。ここが昔のヤンキーと最も違うところです。(中略)
中学生時代から通う近所のファミレスで、30歳になっても40歳になっても、同じメンバーでたむろしていたい。それがマイルドヤンキーの理想の人生なのだと思います」
一昔前にいわれた若者の「Uターン」とは違う。はじめから都会なんぞに目もくれず、地元に根を生やし家族や友達と楽しく生きていこうという若者が増えることは歓迎すべきことではある。
大学卒の若者を「正社員」という甘い餌で釣って長時間労働を課し、過重な責任を負わせ、パワハラなどで精神的に追い詰め、3年も経たないうちにボロ雑巾のように捨てるブラック企業が増えていることにも関連しているのであろう。
昔、一億総中流時代といわれた。それが崩れ貧富の格差が年々甚だしくなり、1%の富裕層のためだけに政治が行なわれ、都会の若者たちは夢を見ることさえかなわない時代になってしまった。
そうした中央集権国家に寄りかからない新しい層の台頭は、この不公平な世の中に対する“抵抗”の、彼らなりの表し方なのかもしれない。
元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
今週は企業ものといわれるジャンルを取り上げてみた。
第1位 「ユニクロがパート・アルバイト1万6000人を『正社員化』それっていいことなの?」(『週刊現代』4/5号)
第2位 「孫と柳井、10年後に生き残るのはどっちだ?!」(『週刊ポスト』4/4・11号)
第3位 「あなたの税金が大企業の『ベア』に化けた」(『週刊現代』4/5号)
3位。『現代』は大企業がベースアップを認めたのは法人税減税を見越してのことで、結局われわれの税金が使われるだけだと批判している。
「3月12日に、安倍首相の諮問機関である政府税調で、法人税改革を議論するワーキンググループが初会合を開きました。(中略)
3月12日というのは企業側がベアの回答をする集中回答日。まさに企業の賃上げ姿勢を見届けながら、法人税減税の幕が開かれた形です」(税調関係者)
法人税減税については1パーセントの減税で5000億円近い税収が失われるリスクがあるため自民党内ですら慎重論があるが、政府税調は「減税ありき」の議論を展開することが決定的だと『現代』は書いている。これで景気がよくなるわけはない。
2位の『ポスト』の記事では、ソフトバンクの孫氏とユニクロの柳井氏のどちらの企業が10年後に生き残っているのかを論じている。
企業戦略、後継者問題、どれをとっても同じ課題を抱えているため、結局この勝負、痛み分けのようだ。
今週の1位はパート、アルバイト1万6000人を正社員化すると発表したファーストリテイリング(FR社)に疑問を呈している『現代』の記事。
社員化には落とし穴があるという。現在、現場の店長には「売り上げの増大」と「人件費の管理・削減」という難題が要求されている。FR社は「正社員化」される人々が納得できるような賃金アップをするつもりはあるのだろうかと問いかけている。
また、賃金がある程度上がったとしても、それに見合わないほどの過重なノルマが課せられるようなことになっては「幸せ」とは到底言えないだろうともいっている。
ブラック企業被害対策弁護団の代表を務める、弁護士の佐々木亮氏がこう語っている。
「現状の報道だけ見て、『立派な判断ですね』とは言えません。正社員化によって生み出されるのは、残業やノルマが増えただけの『名ばかりの正社員』という可能性もあるからです。
柳井さんは正社員化の方針と同時に、『販売員には今の効率の2倍を求めます』と述べていますね。これまで店長が担っていた責任が、新たな正社員にも降りかかり、労働強化が行われることが容易に想像できます。そもそもユニクロは長年、長時間労働が問題視されてきました。その是正が同時に図られるのでしょうか」
ブラック企業というありがたくない称号を捨て去るためには、正社員化だけではダメだということである。