動物の体細胞を弱酸性の溶液に浸すだけで、胎盤を含むすべての細胞を作れるという「STAP(スタップ)細胞」。当初は万能細胞の発見かと騒がれたが、理化学研究所の小保方晴子氏や山梨大学の若山照彦氏らが発表した論文に複数の疑義や問題点が指摘されるようになる。そして、4月1日、研究を主導した小保方氏が所属する理化学研究所は、論文の改ざん、研究の不正を認定した。

 騒ぎの舞台となったのは、イギリスの学術雑誌『ネイチャー(Nature)』だ。

 理系、文系、いずれの分野でも、研究者は自分の研究成果を学術雑誌に投稿し、掲載されることが重要な功績となり、社会的にも認められることになる。だが、投稿すれば何でも採用されるわけではない。

 理系雑誌では専門家による査読によって掲載の取捨選択が行なわれている。日々、膨大な量の論文が投稿されるため、その研究領域の専門家に評価・検証をしてもらい、論文のレベルや成果によって掲載するに堪えうる内容かどうかを評価しているのだ。

 学術雑誌は世界中に数万件あると言われているが、どの雑誌に掲載されるかによって研究者の評価は大きく異なる。権威のある雑誌に論文が掲載されることは名誉なだけではなく、その後の研究ポストや昇進、研究費の配分などにも影響を及ぼす。

 今回、STAP細胞の論文を採用した『ネイチャー』は、自然科学や医学などの分野では世界で最も権威のある学術雑誌で、アメリカの『セル(Cell)』、『サイエンス(Science)』と並ぶトップジャーナルだ。

 トップジャーナルは査読が厳しいことでも有名で、投稿した論文の1割ほどしか掲載されないと言われている。このような権威のある学術雑誌でも、論文に不備が見つかり、あとから撤回することは決して珍しいことではない。

 ただし、今回は小保方氏の所属する理研自らが、研究のねつ造、不正を発表してしまった。そうした不正すら、『ネイチャー』は見抜けなかったのだろうか。だとすれば、トップジャーナルの査読力不足も問われることになりはしまいか。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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