2013年、ホテルのレストランやデパートで食材の虚偽表示が相次いで発覚した。これを「ウソつき」と一刀両断するのはごく自然な反応だが、少し同情の余地もあろう。デフレの中で、飲食業というものは切り詰めても切り詰めても利益が出ない。それで味をおろそかにするならプロ失格だが、誤解をおそれずに言えば、「虚偽」の食材でじゅうぶんに美味しかったということなのだ。そもそも、「安価な高級食材」などというものは形容矛盾である。と、少し擁護してみたものの、やはり何よりも大事な「信頼」を失うべきではなかった。

 この問題を受けて、消費者庁が取り組んでいたメニューに関するガイドラインが2014年3月にまとまった。飲食の現場の意見も入ったので、単に「頭のかたい」ものにはならずに済んだようだ。批判の矢面に立たされていた、脂を注入した「霜降りビーフステーキ」はNG(当然だろう)。一方、流通のリアルなところで、解凍した冷凍魚を鮮魚というのは認められた。もちろん、「本日とれたての鮮魚」などのウソは許されない。

 今回の発表まで一悶着あったのが「サケ弁当」の扱い。サケ弁当には、ニジマスを海で養殖した「サーモントラウト」という魚を用いることが多い。弁当業界では常識であり、たしかに「虚偽」のつもりはなかっただろう。だが、これは消費者庁のやろうとしていること、表示の紛らわしさを排除するということと矛盾してはいないか? と、2月の国会で議論になったわけだ。

 たとえば「ブラックタイガー」を「車エビ」というほどの差が、サケとニジマスの間にはないということもあって、結局はOKの判断が下された。消費者それぞれにも意見もあるだろうが、確かにいつも食べている「シャケ弁」が、ある日突然「ニジマス弁」になったら、「誰得(だれとく)」という感じは否めない。このあたり、メニュー表示に対する行政の指導の限界をよく示している。手頃な価格帯のものは、あまねく「企業努力」が入っているが、それは見方によっては「虚偽」のとなり側ぐらいに位置する「企業努力」なのかもしれない。最終的には、消費者が「安価」ということに対する理解をもっと深める必要があるのだろう。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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