以前に「涙活(るいかつ)」という言葉を紹介したことがあった。ストレスにさいなまれる現代人にとって、涙を流すことはカタルシスになるはずだ。積極的に「泣いてもいい」機会を作ることで、スッキリとした気分で明日を迎えることができる。と、ここまでの理屈はいいのだが、実際はテレビや映画でグイグイと「お涙ちょうだい」をやられても、しらけてしまうという人が多いだろう。その手合いのコンテンツについては、おそらく送り手自身が題材に共鳴していないか、もしくは単純にテクニックが足りない場合が多い。泣かせるのは、難しいのだ。

 「涙活」の仕掛け人であった寺井広樹氏はまた、落語ならぬ「泣語」というイベントを実践しているという。「泣語家」たちの名前は「泣石家芭蕉(なかしや・ばしょう)」など、まさに噺家のノリ。「体験泣語」と「創作泣語」の二種類があって、衣装は「幸福の国」ブータンの民族衣装、ラストには泣語家自身も涙を浮かべる……など、いくつかのルールがおもしろい。老人ホームや「涙活」のイベントなどで披露されている。なるほど、落語の人情噺などは、想像力を働かせながら楽しむことで、ほかの映像メディアでは表現しがたいような感動を生んでいる。ただ、ストーリーだけで聴衆の感情をコントロールできるなら、噺家だって修行は要らないわけで……。やはり「表現」の面で、ふだんはいち社会人である泣語家の皆さんも、苦労しているようだ。まだこれからの展開が楽しみなジャンル。最近、複数のメディアで好意的に採り上げられている。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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