厚生労働省が2013年6月に発表した「認知症有病率等調査」2012年時点の認知症患者数は、推計で約462万人。日本の65歳以上人口の15%が認知症を患っている計算になる。高齢化に伴う認知症患者の増加が予想されるなかで、医療の現場で始まっているのが新しい高齢者ケア「ユマニチュード」だ。

 ユマニチュード(Humanitude)は、「人として尊重すること」という意味を表すフランス語の造語で、フランス人体育学教師のイブ・ジネスト氏らによって1979年に考案された高齢者ケア技術だ。

 基本的な考え方は、「見つめる」「話しかける」「触れる」「立つ」の4つ。これは、人が尊厳をもって生きていくには、「誰かに見つめられ、人と言葉を交わし、触れ合い、自分の足で立つことが大切だ」という哲学に基づくものだ。

 たとえば、見つめるときは、患者を上から見下ろすのではなく、「看護者・介護者は同じ目の高さまで身体を降ろし、正面から、相手の顔の20センチメートルほどの距離で、時間をかけて見つめる」など、150を超える具体的な技術が体系化されている。

 認知症患者は生活環境が変化すると、不安になって混乱し、大声を出したり、暴れたりすることがある。そうした患者が、肺炎や骨折など急性期の病気やケガで入院することになった場合、必要な治療やケアを拒否することもあるため、やむを得ずに体を拘束したり、向精神薬などを使って鎮静化が図られたりすることがある。しかし、そうした措置は逆に患者の身体機能を低下させ、看護者・介護者にも精神的な苦痛をもたらしている。

 ところがユマニチュードを取り入れた医療機関では、こうした措置に頼らず認知症患者の治療やケアがスムーズに行なえるようになり、患者の自立度を引き上げ、看護者・介護者の負担を減らしその離職率を抑えることにも効果があるという。

 いまのところ、ユマニチュードにはエビデンスといえるだけのデータがなく、導入は一部の医療機関に留まっている。だが、経験している看護師や家族はその効果を実感しているようだ。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年には、認知症患者が急増することは想像に難くない。

 ユマニチュードが、高齢化が進む日本の救世主となるのか。国による、ユマニチュードの実証効果のデータ化が急がれる。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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