「もっと多くのモノを」「もっとたくさんのお金を」「もっと早く……」「もっと効率よく……」。

 大量生産、大量消費のサイクルに埋め込まれ、駆り立てられるように上を目指すことを求められる現代。ひとつ欲しいモノを手に入れても、満足することは許されない。

 パソコン、スマートフォン、クルマ、マイホーム……。次々と発売される新しい商品を手に入れるために、無理して働き、お金を稼がなければという強迫観念にとらわれている人もいるのではないだろうか。

 だが、そんな消費社会から一歩身を引き、減速して生きることを選んだ人たちがいる。車のギアをトップに入れて高速道路をひた走るような生活から、シフトダウンし、自らのペースで無理せずにゆっくりと走る。そんな暮らしを送っている人々が「ダウンシフターズ」だ。

 最初にダウンシフターズを名乗った高坂勝(こうさか・まさる)さんは、大手百貨店のトップセールスマン時代に、大量生産・大量消費を促す資本主義社会のあり方に疑問を感じて退職。その後、暮らせるだけのお金を稼げればいいと「儲けすぎない」をモットーに、自営でオーガニックバーを開業した。現在、お店は週休3日で、空いた時間を利用して休耕田でコメ作りをしたり、社会貢献活動などを行なったりしている。会社員時代に比べたら収入は半分になったが、暮らしに困ることはない。

 ほかにも、農業をしながら歌手や作家業などをする「半農半X」、会社に雇われずに少人数で事業を行なう「スモールビジネス」など、自分の身の丈にあった自由な稼ぎ方、暮らし方をしている人たちがいる。たんに競争に疲れてドロップアウトしたのではない。資本主義経済のあり方に疑問を持ち、そこから自由になるために、もう一つの生き方を選んだ結果なので、彼らの表情は一様に明るい。

 東日本大震災後、こうしたダウンシフターズたちに共感を覚える人たちが急速に増えているようだ。

 「もっと、もっと」と上を目指す競争社会から抜け出し、減速して自らの生きるペースを考え直す。ダウンシフターズからは、お金やモノの多寡を比較して豊かさを計るのではなく、真の幸福とは何かを考える姿勢が見て取れる。

 もしもあなたが、大量生産、大量消費の現代社会に疑問を感じているなら、立ち止まって減速して暮らすのも悪くない。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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