その場に合わせ、微妙に意味や強さが変わることばで、それをしてはいけないと禁じるとき、あるいは思ったように物事がはかどらないとき、用意したものが使えないとき、「これあかんわ」の一言で済んでしまう。また、効果がないとき、無駄なとき、だめなときなどにも使われている。

 本来は「埒(らち)があかぬ」を略し、「あかぬ」の音が変化したもので、関西地方でよく使われる方言である。これらは、どうもうまくいかなくて、少しいらいらしながら嘆くような感じで使われているけれど、使い方はほかにもある。

 弱虫とか、意気地無し、という意味があり、例えば、もう少しがんばれ、と子どもへの励ましを込めて「あかんたれ」という。昔は子どもを叱るような厳しさが含まれていたようであるが、最近はどちらかというと、「うちのボンは甘えん坊やからなぁ」と、ちょっと包み込むようなやさしさの感じられる意味合いが主流になっているようだ。

 器用に場もわきまえて使い回すこともできる。「あそこへ行ってはいけません」と伝えたいとすれば、普通なら、「あこ(あそこ)へ行ったらあかんえ」という。これを人前で少し丁寧な言い方にする場合、「あかんえ」は「あきまへん」となり、さらに丁寧にするならば「あかしまへん」という風に変化していく。近畿圏や北陸でも「あかん」を微妙に言い換えて使っているので、その言い方で出身地がなんとなく想像できるものである。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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