「高齢になっても、人の手を借りずに自立した暮らしを送りたい」

 誰でも思うことだろう。だが、そんな願いとは裏腹に、年を重ねれば体力は衰え、少しずつできないことが増えていく。

 戦後、日本人の平均寿命は飛躍的に伸びて、2010年は男性が79.55歳、女性が86.30歳。しかし、病気をしたり、介護サポートを受けたりせずに日常生活を送れる健康寿命は、男性70.42歳、女性73.62歳だ。平均寿命との差は、男性が約9年、女性が12年で、この間は子どもも親に対して何らかのサポートが必要になることが多い。

 高齢の親に必要なサポートとして真っ先に挙げられるのは介護だが、同時に問題となっているのが「親家片(おやかた)」だ。「親の家を片付ける」の略語で、シニア女性向け雑誌の『ゆうゆう』(主婦の友社)が、読者の実体験から高齢の親の家の片付けの深刻さをレポートして話題となった。

 「どうして親の家は、こんなにたくさんのモノがあふれているのか」と思う人も多いのではないだろうか。現在、70~80代の人々は高度経済成長期に家庭を持ち、モノを持つことに豊かさを見出してきた世代だ。そうでなくても、数十年という年月を経れば、どんな家でも少しずつモノは増えていく。

 一方で、高齢になって体力や気力が落ちてくると、家の片づけをするのが億劫になり、掃除も行き届かなくなるものだ。モノに囲まれ窮屈そうに暮らす親を見かねて、よかれと思って親の家を片付けようとしたところ、親にはそれが気に入らない。子どもにはガラクタに見えても、親にはそのモノに対する思い入れもある。子どもの都合で厄介払いをされるような気持ちになるため、「親家片」は一筋縄ではいかないのだ。

 また、親が介護施設に入所したり、認知症を発症して自分で家を片付けられなくなったりした場合は、好むと好まざるにかかわらず、子どもたちにその家の片付けが託される。また、親の死亡後に「親家片」をしなければならないこともあるが、子どもの側から見ても、モノは親との思い出そのもの。その思い出を処分することに後ろめたさを感じることもある。

 同じモノの整理でも、「断捨離」は自らの意思で不要なものを捨て、スッキリした気持ちで新しい生活に向かうため、その先に明るい未来が見える。だが、「親家片」は、いずれ迎える親との別れの準備ともいえる。モノを通して親との日々を振り返り、親と向き合う時間そのものだ。たんなるモノの片付けではないため、頭では整理が必要だとわかっていても、親も子どもも簡単には進められないのだ。

 「親家片」を経験した人の多くは、その片付けの大変さから、「モノを持たなくなった」「新しいモノを買わなくなった」と、急速にモノへの執着を解いていく。そして、体の動くうちに自分で片付けておこうと思うようになるという。

 たとえ見ないふりをしていても、いずれ「親家片」しなければならない日はやってくる。 高齢になればなるほど、家の片付けは厳しくなる。ならば、親が元気なうちに時間を作って、親の意思を尊重しながら「プレ親家片」を始めておきたいものだ。それは、モノの片付けを通じて、もう一度、親子関係を問い直す人生においての重要な作業なのかもしれない。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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