低価格家電の代表選手だった扇風機に異変が起きている。

 東日本大震災の影響で、電力不足が心配された2011年夏。東北・東京・関西電力管内に数値目標付きの節電が要請され、一般家庭でもエアコンの使用を控えるために、少ない消費電力で涼をとれる扇風機が飛ぶように売れた。

 今年の夏は、昨年同様に数値目標こそ見送られたが、国による節電要請は続いている。そうした中で注目を集めているのが、従来型より消費電力が少ないDC扇風機だ。

 DC(Direct Current)扇風機と呼ばれる所以は、羽を回すモーターにある。従来型は、モーターにAC(Alternating Current)と言われる交流電流を使っているのに対して、DC扇風機は直流電流でファンを回す。この直流電流を使うと、風量調節が細かくできて、AC型よりも弱い風を送れるようになり、それが消費電力に如実に表れている。

 AC型の風量調節は、弱・中・強の3段階が一般的だが、DC扇風機の多くは風量を8段階以上に細かく調節できる。そのため、AC型の最低消費電力が30W程度なのに対して、DC扇風機は2W程度まで消費電力を抑えられるものもある。また、小さな電力でも効率よくモーターを回せるので、強風ではAC型が40~50Wかかるのに対して、DC扇風機は20~30Wと消費電力が低いのだ。

 従来品より柔らかい風をつくれるようになったため、羽を回すモーターの音も静かで、「音が気になる」「扇風機の風に長時間あたるとだるくなる」といった悩みも解決された。

 よいことづくめのDC扇風機だが、その分、価格は高めだ。AC型は2000~3000円程度で購入できるものが多いが、DC型は2万~3万円と値の張る価格帯となっている。DC型の登場は、性能の飛躍とともに、「扇風機=格安家電」という市場での位置づけをも変えることになったのだ。

 技術革新の進んでいるエアコンや冷蔵庫は、省エネ性能に優れた新製品に買い替えたほうが、古いものを使い続けるより電気代は格段に安くなる。だが、扇風機で使われる電力量はもともと少ないため、AC型からDC型に替えても、電気代が飛躍的に下がるわけではない。本体価格を含めて総合的にお金の節約のことを考えると、DC扇風機は割高感がある。それでも、DC扇風機が売れているのは、製品の性能に加えて、「少しでも節電しよう」という国民のエコ意識の高まりもあるだろう。

 東日本大震災から4回目の夏を迎えたが、東京電力福島第一原発事故は収束したとはいえず、汚染水を遮断する凍土壁の工事も難航している。そして、住み慣れた故郷を追われ、いまだ避難生活を強いられている人々がいる。

 その一方で、国や電力会社は燃料費の高騰などを理由に、安全対策が十分とはいえない原子力発電所の再稼働のタイミングを計っている。 値段が高くても消費電力の少ないDC扇風機を選ぶ国民の行動は、こうした国のやり方に対する無言の抵抗のようにも感じられる。自分たちが暮らしのなかで使うエネルギーを少しでも減らすことで、「原発はなくても大丈夫です」と証明しようという心意気だ。

 たかが扇風機、されど扇風機。

 それぞれの家庭での消費電力の削減はわずかかもしれない。だが、それが日本中に広まれば大きなエネルギーの削減につながっていく。DC扇風機の普及は、そんな国民の節電意識の共有の表れではないだろうか。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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