日本の多種多様な菊は、大菊、古典菊、小菊などに大別することができる。嵯峨菊は古典菊の一種。古典菊では肥後菊や美濃菊などが有名であり、江戸時代に各地の大名が保護奨励して大切に品種改良を重ねた地域独特の園芸種が名を連ねている。だが、嵯峨菊の発祥は平安時代に遡り、大覚寺・大沢の池に自生していた野菊を農民が栽培したことからであったといわれている。そして、献上された嵯峨菊を愛でたのが、9世紀初頭に政治で敏腕を振るい、当時最高の文化人といわれた嵯峨天皇である。嵯峨天皇が晩年を過ごし、嵯峨御所や嵯峨離宮ともいわれる大覚寺では、菊としては開花の遅い嵯峨菊を、11月を通して錦秋への移り変わりの中に楽しむことができる。

 奥の深い観賞菊の世界は、ちょっと見方を知っていると見るのが楽しくなる。嵯峨菊には独特の仕立て方(栽培方法)があり、これを箒(ほうき)作りという。箒作りは、茎の長さを1.5~2メートルほどに細長く成長させ、栽培する方法で、まるで逆さまにした箒のように育てられる。この細長い茎の先端に、細い花びらが茶筅(ちゃせん)を立てたようにして花が咲く。嵯峨菊は複数の鉢植えなどを並べて観賞し、立寄(たちよ)せという、花弁が平行に咲いている姿が理想とされている。そして、花を見るときは全体を四季に見立て、先端の花弁部分を春、緑の葉を夏、やや赤く色づく下側の葉を秋、茎だけの根元近くを冬として眺めることで、出来映えや作者の意図がよく見えてくる。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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