2014年10月から、高齢者の肺炎球菌ワクチンが定期接種になった。
日本では、国や自治体が接種を強く勧める「定期接種」と、接種するかどうかを自分(子どもの場合は保護者)が判断する「任意接種」の2種類にワクチンが分類されている。 予防接種法で定期接種に認められたワクチンは、自治体の助成によって、ほとんどの市区町村で無料で受けられるようになる。その定期接種に、高齢者の肺炎球菌ワクチンも導入されたのだ。
肺炎球菌感染症は、おもに気道の分泌物に含まれる肺炎球菌という細菌が、咳やくしゃみなどによって感染する病気だ。体力の落ちている高齢者の場合、気管支炎、肺炎、敗血症などの合併症を起こすことがある。
厚生労働省の「人口動態統計」(2013年)によると、高齢化を反映し、肺炎が日本人の死因の第3位となっている。その予防のために取り入れられたのが、高齢者に対する肺炎球菌ワクチンだ。
今回、定期接種の対象となったのは、ニューモバックスNP(23価肺炎球菌莢膜(きょうまく)ポリサッカライドワクチン)というワクチンだ。
日本では、高齢者施設の入所者に対して同ワクチンを接種し、肺炎の予防や生存率の改善に効果があるかどうかを調査した研究が2010年に発表されている。これによると、ワクチン接種によって、肺炎球菌性肺炎の発症が63.8%、すべての肺炎についても44.8%減少したことが報告されている。
死亡については、すべての肺炎での死亡率に有意差はないものの、肺炎球菌性肺炎による死亡率はワクチン接種によって有意に抑制されることが証明された。
また、肺炎球菌ワクチンをインフルエンザワクチンと併用することで、高齢者の肺炎による医療費を削減できた例も報告されている。
しかし、海外では、肺炎球菌ワクチンが、肺炎全般の発症を抑えたり、肺炎による死亡率を改善させたりする効果があるという評価は固まっていない。たとえば、『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(N Engl J Med)』に2003年に掲載された論文では、肺炎球菌性肺炎は減少したものの、反対に肺炎による入院、すべての肺炎が増加したと報告されているのだ。
小児の肺炎球菌ワクチンが有意に効果を示しているのに対して、高齢者への肺炎球菌ワクチンの効果は専門家の間でも意見が分かれるところだ。もちろん、高齢者施設などの限定的な環境での集団接種によって肺炎球菌性肺炎にかかる人が減れば、医療従事者や介護者の負担を軽くできるといった期待は持てるかもしれない。しかし、肺炎全般を減らしたり、生存率に大きな改善をもたらすかどうかは証明されておらず、議論の余地を残したまま、今回の定期接種が踏み切られた格好だ。
そもそも、日本はワクチン後進国で、長い間、先進諸国に比べてワクチン政策に遅れをとってきた。小児科医の働きかけや市民運動の盛り上がりによって、2008年からようやくワクチンギャップが解消されるようになってきたが、おたふくかぜやロタウィルスなど、諸外国では当たり前のワクチンがいまだ任意接種になっている。
そのため、評価の定まっていない高齢者の肺炎球菌ワクチンを定期接種にする前に、接種効果が確認されている小児に必要なワクチンの導入を優先すべきといった意見もあるようだ。しかし、時に医学的なエビデンスよりも、そのワクチンにかかわる人々の力関係によって、導入されるワクチンの優先順位の変更が起こりうるのが現実社会だ。
公衆衛生を高め、国民全体の健康を保つために税金を投入するワクチンは、社会的共通資本のひとつだ。ワクチンの導入については、エビデンスにもとづく民主的な話し合いによって、国民の合意を形成していく必要があるのではないだろうか。
日本では、国や自治体が接種を強く勧める「定期接種」と、接種するかどうかを自分(子どもの場合は保護者)が判断する「任意接種」の2種類にワクチンが分類されている。 予防接種法で定期接種に認められたワクチンは、自治体の助成によって、ほとんどの市区町村で無料で受けられるようになる。その定期接種に、高齢者の肺炎球菌ワクチンも導入されたのだ。
肺炎球菌感染症は、おもに気道の分泌物に含まれる肺炎球菌という細菌が、咳やくしゃみなどによって感染する病気だ。体力の落ちている高齢者の場合、気管支炎、肺炎、敗血症などの合併症を起こすことがある。
厚生労働省の「人口動態統計」(2013年)によると、高齢化を反映し、肺炎が日本人の死因の第3位となっている。その予防のために取り入れられたのが、高齢者に対する肺炎球菌ワクチンだ。
今回、定期接種の対象となったのは、ニューモバックスNP(23価肺炎球菌莢膜(きょうまく)ポリサッカライドワクチン)というワクチンだ。
日本では、高齢者施設の入所者に対して同ワクチンを接種し、肺炎の予防や生存率の改善に効果があるかどうかを調査した研究が2010年に発表されている。これによると、ワクチン接種によって、肺炎球菌性肺炎の発症が63.8%、すべての肺炎についても44.8%減少したことが報告されている。
死亡については、すべての肺炎での死亡率に有意差はないものの、肺炎球菌性肺炎による死亡率はワクチン接種によって有意に抑制されることが証明された。
また、肺炎球菌ワクチンをインフルエンザワクチンと併用することで、高齢者の肺炎による医療費を削減できた例も報告されている。
しかし、海外では、肺炎球菌ワクチンが、肺炎全般の発症を抑えたり、肺炎による死亡率を改善させたりする効果があるという評価は固まっていない。たとえば、『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(N Engl J Med)』に2003年に掲載された論文では、肺炎球菌性肺炎は減少したものの、反対に肺炎による入院、すべての肺炎が増加したと報告されているのだ。
小児の肺炎球菌ワクチンが有意に効果を示しているのに対して、高齢者への肺炎球菌ワクチンの効果は専門家の間でも意見が分かれるところだ。もちろん、高齢者施設などの限定的な環境での集団接種によって肺炎球菌性肺炎にかかる人が減れば、医療従事者や介護者の負担を軽くできるといった期待は持てるかもしれない。しかし、肺炎全般を減らしたり、生存率に大きな改善をもたらすかどうかは証明されておらず、議論の余地を残したまま、今回の定期接種が踏み切られた格好だ。
そもそも、日本はワクチン後進国で、長い間、先進諸国に比べてワクチン政策に遅れをとってきた。小児科医の働きかけや市民運動の盛り上がりによって、2008年からようやくワクチンギャップが解消されるようになってきたが、おたふくかぜやロタウィルスなど、諸外国では当たり前のワクチンがいまだ任意接種になっている。
そのため、評価の定まっていない高齢者の肺炎球菌ワクチンを定期接種にする前に、接種効果が確認されている小児に必要なワクチンの導入を優先すべきといった意見もあるようだ。しかし、時に医学的なエビデンスよりも、そのワクチンにかかわる人々の力関係によって、導入されるワクチンの優先順位の変更が起こりうるのが現実社会だ。
公衆衛生を高め、国民全体の健康を保つために税金を投入するワクチンは、社会的共通資本のひとつだ。ワクチンの導入については、エビデンスにもとづく民主的な話し合いによって、国民の合意を形成していく必要があるのではないだろうか。