「色」とは何か。これを説明することは案外難しい。ある物質に光が当たると、「反射」と「吸収」が行なわれる。目が光の反射による波長を受け取ることで、波長が長ければ赤、短ければ紫といったように「色」を認識するわけだ。一方、物質は光を吸収する。その吸収率が高いほど「黒い」。黒い物体とは、光をほとんど呑み込んでしまう物体ということになる(ただし、もしも光の吸収率が100%ならば、もはやそれを物体として認識できない)。門外漢は、「闇」を想像すると理解しやすいかもしれない。

 イギリスのサリー・ナノシステムズ社が開発した「ベンタブラック」は、いま「世界一黒い物質」として話題になっている。直径2~3ナノメートルの無数のカーボンナノチューブ(筒状炭素分子)で作られたもので、報道によれば光の99.96%までを吸収する。そのニュース映像は、かなりのインパクトをもって視聴者に迎えられた。まさに「呑み込まれるような不気味さのある黒」だったからである。

 では、このような「黒」を生み出して、どのような利用法があるのか。たとえば、カメラや望遠鏡などの光学機器である。ベンタブラックによって望遠鏡の感度が向上すれば、未知なる星の発見につながるかもしれない。究極の「闇」によって、新しい世界の「光」を見出す。なかなかロマンのある話ではないだろうか。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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