「かんとうだき」とも読む。関東風の煮込みおでんのことである。気長に煮るだけで、寒い時期の晩酌にも、ごはんにもよく合い、魔法でもかけられたように暖かくなる。京都ではおだい(大根)の旬に必ず食べる家庭料理であり、主役の種(たね)は、おだい、おこんにゃ(こんにゃく)、ひろうす(がんもどき)、お焼き(焼き豆腐)、小芋、じゃがいも、にんじん、ちくわ、ごぼ天やひら天(さつま揚げ)。関西風の最たる種といえば、串に通した牛すじや蛸、鯨のさえずり(舌)やコロ(皮)といったところだろう。いつのまにか、東京のコンビニおでんが関西風のだしになっていて驚いたが、関東煮の決め手はだしで、秘訣は下ごしらえに手を抜かないこと。

 まず、おこぶと鰹節でだしを十分ひいておき、使ったこぶは鍋底に寝かせておく。野菜は大振りに切って、先に湯がいておくこと。おこんにゃは先に湯通しし、天ぷら(揚げた材料)には湯をかけて油抜きをする。おこぶを寝かせた鍋にだしを張り、野菜や豆腐類を入れてことこと煮て、味醂、砂糖少なめ、日本酒、塩、淡口醤油でうすめの味を付ける。最後にちくわや天ぷらを入れると、だしにこくが加わるので、ひと煮立ちさせれば完成である。あとは好みで煮加減や味を調整するだけでよい。

 「おでん」とは「おでんがく」の略語で、「御田」と書く。語源は田楽という笛や鼓に合わせて舞う農耕儀礼のことだ。その舞姿が、豆腐を串に刺して味噌をつけた味噌田楽に似ていたので、食べ物の名称になったと伝えられている。そして、串に刺しても崩れないように、おこんにゃを使った「おでん」が主流になったというわけである。以前は京都で「おでん」といえば、角切りのおこんにゃを竹串に刺して茹で、そこに甘味噌をかけた味噌田楽のことであった。醤油味のだしでつくる煮込みおでんは、江戸末期にうまれたものだ。それが明治期に関西地方に伝わり、味噌田楽の「おでん」と区別するために、関東煮と呼ばれるようになったそうだが、詳しい理由はわかっていない。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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