5月17日、大阪都構想の賛否を問う住民投票が行なわれた。結果は、賛成69万4844票(有権者の33.02%)、反対70万5585票(同、33.53%)。橋下徹市長の提案は僅差で否決されたが、その理由に「シルバーデモクラシー」が挙げられている。

 シルバーデモクラシーとは、有権者のなかで高齢者が占める割合が高いために、若い人より高齢の人の意見が政治に反映しやすい状態をいう。

 少子高齢化が進む日本では、国民全体に占める65歳以上人口は26.4%(2015年5月概算値)。全体の4分の1を占めるまでになっているが、政治参加の意識も高齢者のほうが高い。

 2014年12月に行なわれた衆議院議員総選挙における年代別投票率は70代以上が59.46%なのに対して、20代は32.58%。高齢の人の投票率のほうが、若い人の2倍も高くなっている。

 これは、日本の社会保障制度が、年金や医療など人生の後半に使うものを中心に設計されているからだ。その制度の行方は高齢者層の政治参加によって決まるため、「高齢者の意見が通りやすい社会」と見られる傾向がある。

 だが、その傾向を大阪都構想の投票結果に当てはめるのは、少々無理がありそうだ。

 一部に、20~40代は大阪都構想に賛成多数なのに、70代以上の反対票が多いせいで否決され、その原因が高齢者人口の多さにあると報じたメディアもある。

 しかし、実際の人口比率を見てみると、決して高齢者層が突出して多いわけではない。以下が、大阪市の人口比率だ(2014年10月推計)。

20代…14.3%
30代…16.8%
40代…18.0%
50代…13.4%
60代…15.6%
70代以上…21.5%

 20~40代を合計すると49.1%となり、70代以上の人の倍以上だ。決して高齢者人口が突出して多いわけではない。

 一方で、今回の投票結果は、年代別の投票者数、投票率は具体的には示されておらず、「高齢者の反対によって大阪都構想が実現しなかった」という確証はない。

 正確なデータを提示せず、大阪都構想の失敗をシルバーデモクラシーのせいにしても、世代間の対立を煽るだけで、真の改革は進まないだろう。つまるところ、若年層が政治に参加する意識が乏しいのは、魅力ある政策を提示できていないからだ。若者への政治参加を促すなら、彼らの目の前にある雇用や教育、子育てといった問題を解決できる政策を見せる必要があるだろう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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