有名な「受験術」に、「歴史の学習マンガを読む」というものがある。歴史が苦手な学生は、そもそも歴史に対して「絵」が浮かばない。イメージできない無味乾燥な文字列は、本人の能力いかんというより、おおよその人間にとって暗記が難しいものなのだ。学習マンガは、参考書的な学びのツールと言うよりも、本格的な受験勉強に入るためのカタパルトとして機能するはずである。

 学習マンガの効用は、ベストセラー『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(坪田信貴・著、KADOKAWA)でも紹介されている。おもしろいことに、本の売り上げと連動するかたちで、『学習まんが 少年少女日本の歴史』(小学館、全23巻)も売り上げをのばしているのだ。学習マンガも各社競合の分野だが、小学館版は『ビリギャル本』が推しているように、重要な事項が網羅され「受験に使える」内容。マイナス点としては、1980年代からのロングセラーであるがゆえに、最新の歴史研究は反映されていないこと。そして、現在のマンガ界の表現技法からすれば、少し「地味」という印象がぬぐえないことだろうか。だが、大手出版社の当時の力おそるべし、もう二度とこれほど考証の丁寧な作品は現れないだろう、と評されるほど伝説的な労作だ。

 小学館版のライバルと目されるのが集英社の『学習漫画 日本の歴史』(20巻+別巻3冊、全23巻)。劇画タッチに特徴があり、ストーリーテリングも少し「漫画的」な派手さが感じられる。この「二強」に対抗するのは、なかなか困難な事業だ。「ひみつシリーズ」などで支持を受けながら、歴史学習マンガでは後塵を拝していた学研は、2012年にシリーズを刷新し、『学研まんがNEW日本の歴史』(全13巻)を登場させた。絵柄はかなりイマドキ風。さらに、今年6月末には、『ビリギャル本』の版元であるKADOKAWAも『角川まんが学習シリーズ「日本の歴史」』(全15巻)で参入した。このジャンルでの「戦国時代」がいま、始まろうとしている。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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