「内々定と引き換えに他社への就職活動をやめるように強要された」
 「他社の就職試験を受けさせないように、連日、面接の日程を入れて妨害する」
 「極めて威丈高な態度や人格攻撃など、他の企業を受けるなと指示された」

 内々定を出した企業の人事部が、学生に対して、就職活動の終了を強要するハラスメントが問題となっている。いわゆる「就活終われハラスメント」で、学生たちの間では「オワハラ」と呼ばれている。

 文部科学省が6月25日に発表した「平成27年度就職・採用活動時期の変更に関する調査(5月1日現在)の結果について」によると、45.1%の大学・短大が、学生からオワハラの相談を受けたことがあると回答している。

 オワハラの背景にあるのは、(1)企業の採用活動時期の見直し、(2)就職活動が学生側に有利な売り手市場、の2つだ。

 「学生の本分である学業に専念する時間を十分に確保する」という国の要請を受け、日本経済団体連合会(経団連)は2016年度春の新卒採用指針を見直している。そのため、今年は説明会や面接などが後ろ倒しになっており、選考期間が短くなっている。だが、外資系や経団連に属さない中小・ベンチャー企業は、この指針に関係なく早い段階から選考作業を始めている。また、経団連加盟企業でも、インターンシップやセミナーなどで、優秀な学生を見つけて実質的な青田買いが行なわれているようだ。

 折しも、企業業績の回復とともに、今は学生が有利な売り手市場だ。就職氷河期だった時代とは異なり、一社断っても、他にも就職先はある。その結果、せっかく見つけた優秀な学生が他社に流れないように、内定辞退を警戒する企業によるオワハラが目立つようになっているのだ。

 なかには、「この場で、他に受けている企業全部に辞退の連絡を入れろ」「内定を辞退したら訴える」と迫ったり、「研修に参加することが内定の条件」と本来の採用試験が始まる8月初旬に学生の身柄を拘束して、他社の試験を受けさせないようにする狡猾なやり方もある。

 だが、憲法22条では「何人も職業選択の自由を有する」と保障しており、企業が学生の自由選択を妨げる「オワハラ」は違法行為だ。

 文科省でも、こうした違法行為を行なう企業への警戒を強めており、オワハラを受けた場合はひとりで悩まずに学校の就職支援センターなどの窓口に相談するように呼びかけている。

 就職氷河期は何十社も試験を受けても就職が決まらず、自己否定されるような思いをした学生がいたかと思えば、売り手市場の今は不当に職業選択の自由を奪われようとする学生がいる。

 経済の動向によって毎年採用枠が異なるのは仕方のないこととは言え、企業という強い立場から学生に行なうハラスメントは慎むべきだ。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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