2015年5月に成立した医療保険制度改革関連法に、健康保険に「インセンティブ制度」を設けることが盛り込まれた。

 インセンティブ制度は、医療や投薬の利用が少ない人にメリットを与えて、加入者に病気予防や健康づくりに励んでもらおうというもの。また、それを支援する仕組みをつくっている健康保険組合を優遇し、増え続ける国の医療や介護の費用を削減するのが狙い。いうなれば、社会保障費を削減するための国をあげての健康増進計画だ。

 実際の運用は来年度からで、次のようなスケジュールが示されている。

2016年度~:自治体などが主催する健康教室の参加者にヘルスケアポイントを付与する仕組みを拡充。

2018年度~:健康づくりを支援したり、価格の低いジェネリック医薬品の普及で成果をあげた健康保険組合などの保険料負担を軽減。現役世代が負担している高齢者医療制度への支援金を減らし、加入者の保険料の引き下げを可能にする。

 2016年度以降、各健康保険組合は国が示すガイドラインにしたがって、病気予防や健康づくりの自助努力をした加入者に、ヘルスケアポイントを付与したり、保険料をキャッシュバックしたりすることも可能になる。

 インセンティブ制度ができれば、ポイントを貯めて賞品と交換したり、現金給付を受けたりできるようになる。健康な人ほど優遇されるので、制度導入を歓迎する声もある。

 だが、健康な人の保険料を引き下げるということは、実質的には病気のある人の保険料を引き上げることになる。つまり、すでに持病のある人は受診時の自己負担に加えて、保険料の支払いでも高い負担を強いられることになり、応能負担(収入に応じて保険料を負担すること)を原則としてきた公的な健康保険を変容させる危険があるのだ。

 また、保険料のキャッシュバック目的で、本当に病院に行かなければならない人が受診を抑制して、重症化するのではないかといったことも懸念されている。

 ましてや、国はインセンティブ制度の導入理由を社会保障費の削減のためにとしているが、予防による医療費の削減効果は、ワクチン接種など一部の対策を除いて、いまだ実証された研究はほとんどない。

 インセンティブ制度の導入が、反対に医療費を押し上げることにはならないのか、国民の健康を阻害することにならないのか。制度運営を注意深く見ていく必要がある。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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