「おまん」とは上用饅頭のこと。普通の饅頭を「おまん」ということもあるので、「上用(上物)のおまん」と呼ぶ時もある。上用饅頭は、古くから婚礼の引き出物やお祝い事のお配りなどに使われてきた、白もしくは紅白の饅頭である。婚礼の内祝いであれば、大きく腰高につくられた五つのおまんを箱に入れ、のし、水引、嫁の名前を書いた紙を付けて挨拶の品とする。古式に従えば、色は白一色であり、これは嫁入り先のどのような色にでも染まりましょう、という決意を表すといわれている。「なんだ、お祝いの紅白饅頭か」と、その味わいを侮るなかれ。和菓子通の間では、上用に始まり、上用に尽きる、とさえいわしめるのが「おまん」である。

 その意味は中身がシンプルなので、食べてみればすぐにわかる。しっとりしてきめ細かい生地がむっちりと粘り、餡と見事に調和している。この生地は、すりおろしたつくね芋と米粉を合わせたもので、粉の配合、混ぜ方、厚み、皮の割れるぎりぎりを見極める蒸し方などと、すべてが揃って上物の饅頭に仕上がる。生地のつくね芋は、薯蕷(しょよ、しょうよ、じょうよ、じょうよう)ともいうので、これが転訛して上用饅頭と呼ぶようになったともいわれている。

 普段、予約をせずに上菓子屋を訪ねれば、中央にちょぼりと紅を付けた「おまん」を買うことが多いだろう。これは「えくぼ」と呼ばれる饅頭である。祝い事のおもたせなら、どんなときでも気楽に持って行ける「おまん」である。実は婚礼の内祝い用には、白五つ以上の上等な「おまん」があって、これを蓬が島(よもがしま)という。大きな「おまん」一個の中にミニチュアみたいに小さい「おまん」が五つ入っている。もちろん、すべて食べられる上用饅頭でできていて、なんと小さな「おまん」の中には、赤餡、白餡、緑餡、こし餡、粒餡が入っているのである。


二条駿河屋の上用饅頭。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
ジャパンナレッジとは 辞書・事典を中心にした知識源から知りたいことにいち早く到達するためのデータベースです。 収録辞書・事典80以上 総項目数480万以上 総文字数16億

ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。 (2024年5月時点)

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る