「すこい」は「すこいやつ」というように使い、「ずるい」を意味することばである。人の目をかすめて、こっそりと「ずるい」ことをする人に使われる。例えば、「あのひと、かっこええこというてはっても、いっつもすこいことばっかりしやはるし」、といった感じだ。江戸弁であれば、「こすい(狡い)」と、ほぼ同じ意味であろう。井原西鶴が江戸期の上方の町民生活を描いた一連の浮世草子においても、「すこひ」ということばが散見されるので、これ以前より庶民によく使われていたのだろう。

 人の悪賢さが「ずるい」を通り越し、欲深くなると「すじこい」ということば遣いに変化する。京ことばには、人の態度を言い表す、このような表現がいろいろあって面白い。よく知られている「いけず」は「いじわる」のこと。でも「いじわるな人」と言いたいときは「こんじょわる」とか「いけずっこ」という。ちょっとかわいらしくもある。「えげつない」は「あくどい」の意味で、「いじましい」は「意地汚い」ことをいう。「すかんたこ」とくれば、「いけすかないやつ」のことだ。逆に、賢くてよく気がつく人を「き(気)がはしる」などというのだけれど、あまり使われなくなっている。現代でまだ生き残っている京ことばには、褒めことばは意外と少ないように感じられる。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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