2015年4月、全国に先駆けて兵庫県で自転車の利用者に、被害者への賠償を行う「自転車保険」などの加入が条例で義務付けられた。背景にあるのは、自転車事故の賠償責任の高額化だ。

 だれでも手軽に利用できる自転車だが、道路交通法上の軽車両にあたり、万一、他人を巻き込む事故を起こした場合は賠償責任を問われることもある。たとえば、小学生の男児(11歳)が、歩行中の女性(62歳)に自転車で正面衝突し、頭蓋骨骨折等による後遺障害を負わせた例では、9521万円もの高額な賠償命令が出されたのだ(神戸地裁・2013年7月4日判決)。

 こうした判例から、今後、自転車による損害賠償を補償する保険への加入義務化は広がることが予想されており、損害保険各社から新しいタイプの自転車保険が発売されるようになっている。

 だが、その補償内容は、商品によってさまざまだ。たとえば、ある民間損保会社では、損害賠償保険金1億円のほか、加入者のケガや死亡の補償もついて年間保険料は6000円程度。一方、保険料は3000円程度だが、加入者のケガや死亡の補償がメインで、損害賠償はついていないものもある。

 だが、自転車保険で重要なのは、被害者への損害賠償のほうだ。自分のケガの治療費は、公的な健康保険でカバーできるし、もしも民間の医療保険に加入していれば、そちらからも補償される。保険料の安さだけに目を奪われず、補償内容を比較して賠償額が1億円程度あるものを選ぶようにしたいもの。

 また、点検・整備が済んだ自転車であることを証明するTSマークが貼ってあれば、付帯保険もあり、自転車事故による法律上の損害賠償の補償を受けられる。賠償額は、シールの色によって異なり、青が最高1000万円、赤は最高5000万円となっている。ただし、近年の賠償額の高額化を考えると、TSマーク付帯保険だけでは不安な面もある。

 あえて、自転車保険に加入しなくても、車の任意保険や住宅の火災保険に、特約で個人賠償責任保険がついていれば、万一の自転車事故による損害も補償される。保険料は年間1000~2000円程度で、1億円程度の補償が受けられる。この他、クレジットカードのサービスとして個人賠償責任保険が付加されているものもある。

 損害賠償額が高額化している今、日常的に自転車に乗る人は万一の事故に備えて、保険には入っておきたいもの。そのときは、すでに加入している火災保険や自動車保険などの補償も見直した上で、できるだけコストを抑える方法を探してみよう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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