維新の党は2014年8月1日に日本維新の会と結いの党が合併して結成された政党で、所属国会議員数では民主党、日本共産党に次ぎ野党第3党。代表を務めていた橋下徹大阪市長(46)の強引なやり方がしばしば軋轢を生み、メディアを賑わしてきた。

 「大阪都構想」を推し進める橋下市長が5月に住民投票で賛否を問うたが否定された。そのことを受けて橋下市長は政界を引退すると表明したが、11月22日に行なわれる府知事&市長ダブル選挙の前に党を分裂するという動きに出たのである。

 きっかけは8月に当時維新の党幹事長だった柿沢未途(みと)氏が山形市長選で推薦外の候補を応援に行ったことだった。これに対して橋下市長と松井一郎大阪府知事(51)が猛反発した。

 巷では橋下主導で事が進められたと思われているが、『週刊新潮』(11/5号、以下『新潮』)によれば、そうではないという。維新の党の関係者がこう語っている。

 「橋下さんは当初、何とか騒動を収めようと必死でした。7月に橋下さんと松井さんは官邸と野党とどちらに軸足を置くかで諍いがあり、しばらく口も利かないような状況だった」

   柿沢を辞めさせようと強硬に主張する松井を橋下が説得したがガンとして聞き入れず、事態は紛糾して8月26日に松井府知事が「党を離れる」ことを表明した。

 そのことを知らされずにいた橋下は慌てて追随したが、その際も記者会見で「党を割らない」と言明している。

 「ところが、舌の根も乾かぬ翌28日には、『大阪維新の会を国政政党化する』と述べ、『党を割る』ことを自ら宣言。ちゃぶ台返しを行ったのである」(『新潮』)

 実は、橋下と松井の主従関係は逆なんだと先の維新の党の関係者が話している。

 「あれだけ人に噛み付く橋下さんですが、松井さんとはずっと“蜜月”を保ってきました。一弁護士だった自分を知事、市長、国政政党の代表へとステップアップさせてくれた松井さんには頭が上がらない。それに加えて、12月18日で橋下さんは、ひとまず“引退”するという“負い目”もある」

 また松井側にはこうした事情があるという。

 「橋下というカリスマが引退した後も、大阪で勢力を維持していかなければならない松井さんは、大阪都構想、カジノの誘致、リニア新幹線の早期大阪延伸という、3つの課題を前に進めていくことが必須。(中略)そのためには官邸の力が不可欠。すなわち、菅官房長官との“蜜月”を保ち続けていくしかないのです」(同)

 一方の東京側の維新のトップである松野頼久氏はリーダーシップがゼロのようだ。『新潮』によれば、大阪側とは分裂が決定的になるまで双方が協議を重ねていて、「一部の議員の分党を認める」「政党交付金は折半する」という10項目の合意案をつくっていたそうだが、松野氏が旧結いの党の江田憲司前代表に電話をしたところ、取り付く島もなく「反対!」されてしまって、なすすべもなかったというのである。

 分裂騒ぎのため党本部がある大阪市内の銀行に振り込まれている約26億6400万円の政党交付金は凍結されてしまっていて、双方が引き出せない状態になってしまっているそうだ。

 「維新の党執行部は30日、橋下徹大阪市長が結成する新党に合流する東徹参院議員らが維新の銀行口座の通帳と印鑑を渡さずに党務を妨害したとして、威力業務妨害の疑いで東京地検に告訴状を提出した。党員名簿を執行部側に渡すよう求める民事訴訟も大阪地裁に起こした。
 分裂騒動が司法を巻き込む事態に発展したのは初めてで、記者会見した松野頼久代表は『党務に支障が出ている』と強調。新党組の遠藤敬(たかし)衆院議員は朝日新聞の取材に『松野氏らが何をしてこようと、全て無効だ』と反発した」(朝日新聞10月31日)

 だがこの訴訟に裁判所が白黒を付けることはないと『新潮』で検察OBが解説している。深く入り込むと裁判所の政治介入になるし、三権分立を壊すことになりかねないからだというのである。

 とまあ、いろいろあったが10月31日に「おおさか維新の会」(以下、おおさか)が結党され、橋下が代表に就任した。これを維新の党執行部は認めておらず、ねじれたまま大阪のダブル選挙を迎える。

 おおさかは先に否決された「大阪都構想」を政策の柱に据えた。自民党は知事候補に栗原貴子府議(53)、市長候補に柳本顕(あきら)前市議(41)を推薦候補にしたが、橋下や松井との関係を重視している安倍首相や菅官房長官は積極的な支持はしていない。

 公明党も大阪では衆院の4選挙区で維新に候補者を立てないでもらっている関係から、自民候補を推薦せず、自主投票にするという“混乱”ぶりだ。

 いまのところおおさかの2候補が優勢なようだが、東京、名古屋に比べて経済の地盤沈下が顕著な大阪経済が選挙を経て活性化するという見方は少ないようだ。

 大阪の浮沈はシャープとともにあった。関東大震災以降、大阪に移ったシャープはラジオ、白黒テレビ、電卓などのヒットを次々に飛ばして大阪を発展させてきた。

 だが、パナソニックや大阪を発祥とする日本生命保険、伊藤忠商事、住友商事などが東京に本社を移してしまったために、04年に39兆円あった府内の総生産は09年には37兆5000億円になったと朝日新聞のデジタル版が報じている。ちなみに愛知県は37兆円で大阪に迫っているという。

 地盤沈下している大阪を、強力なリーダーシップで何とかしてもらえるのではないかという“幻想”が橋下おおさか代表の人気になっているのだろう。だが、目を凝らして見てみれば、花火を打ち上げてはその尻ぬぐいもせず、次の花火を打ち上げることだけに熱心な人間に、大阪再生を託すのはもう少し熟慮してからにしたほうがいいと、私は思う。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週も「欠陥マンション」問題がメディア最大の関心事である。一人の現場責任者に罪をおっ被せようとした元請け、下請けの悪巧みは次々に暴かれ、マンション建設業界の持つ「悪意の構造」が満天下に晒されるはずである。
 銀行しかり、大蔵省(現財務省)しかりであった。マンションだけではない、ゼネコンがやって来た公共工事の“手抜き”問題へと広げていかなくては、根本的な問題解決にはならない。その先にいるのは、分け前をピンハネしている政治家であるこというまでもない。

第1位 「有名『欠陥マンション』建て替えたのか、そのままか」(『週刊現代』11/14号)/「現場『杭打ち』担当者はなぜ偽装に手を染めたか」(『週刊文春』11/5号)
第2位 「『クローズアップ現代』3月で打ち切り決定!」(『週刊現代』11/14号)
第3位 「『都の性北』と大隈侯が天を仰ぐ早大教授のセクハラ頻発」(『週刊新潮』11/5号)

 第3位。『新潮』が「都の性北」バカ田(早稲田)大学でこのところ教授のセクハラが頻発していると報じている。
 私もバカ田大のOBだが、このところ森喜朗(よしろう)、橋下徹、小保方晴子などOBのバカぶりがメディアを騒がすことが多い。それだけではなくこの大学には「スケベ学部」があるのではないかと思えるほど、教授たちのセクハラが止まらないようである。
 先週『新潮』は同大学の憲法学の権威にして、司法試験考査委員も務める大学院法務研究科の島徹教授が教え子のゼミ生に「シシィ(女子ゼミ生)の滴がほしい! 飲みほしたい!」などとメールを送っていたことを報じたが、まだほかにもあるというのだ。
 “アラ還”の文化構想学部の教授が女子留学生を自宅まで送った際、彼女にキスをし服の下から胸を揉んだという。彼女が学内のハラスメント相談室に持ち込んで認定され、解任されたという。
 もう一件は、50代半ばの人間科学学術院の教授が、女性の大学院生に公園で自分の股間を触らせ卑猥なことを言ったため、また別の女性の院生にもハラスメントをした廉(かど)で解任されている。両教授ともに解任は不当だと提訴したが、地裁は請求を棄却している。『新潮』はこう結んでいる。

 「これだけスケベ学部的案件が発覚しては、早稲田は性の乱れが極北に達した『桃色学府』と謗(そし)られても致し方あるまい」

 短い記事だが、週刊誌のお手本のような見事なつくりである。

 第2位。NHKの良心とまでいわれる『クローズアップ現代』を打ち切りにしようという動きが加速していると『現代』が報じている。

 「NHK幹部の間で、『クロ現』は来年3月末で打ち切りになるという方針が大筋で決まったようです。また同時に、7時からの『ニュース7』の放送時間も短くし、現在の30分を15~20分にするという案が出ている」(NHK職員)

 『クローズアップ現代』の打ち切り話は10年ほど前から局内で取り沙汰されていたという。それが安倍政権下になって再燃し、具体化したというのである。
 「報道局の職員は抵抗していますが、止められそうにない」そうである。
 安倍首相の傀儡(かいらい)・籾井(もみい)会長が動いているのは間違いないだろう。
 今年2月までNHK経営委員会委員長代行を務めていた上村達男・早稲田大学法学部教授は『NHKはなぜ、反知性主義に乗っ取られたのか』(東洋経済新報社)という本を上梓した。上村氏はこう語っている。

 「反知性主義の人物の特徴は、『話し合いや議論では、自分は勝てない』と自覚しているので、『オレは絶対に正しい』と強弁し、人の意見を聞かず、不都合になると怒リ出すこと。籾井会長は、このすべてに当てはまる。(中略)
 何でも理詰めで決めるべきだ、と言いたいわけではありません。しかし、世の中には最低限守らなければならないルールや、しかるべき地位の人物が、身につけておくべき徳というものがあります。法曹界からの反発や、国会での正しい手続きを無視して法案採決を進める安倍総理と、他人の意見を聞かない籾井会長の間には、『反知性主義』という共通点があるように思えてなりません」

 同感である。メディアが挙(こぞ)って『クロ現』中止を止めさせなくてはいけないが、どの民放も意気地のない人間ばかり増えてしまったから、活字メディアの出番だと思うのだが。

 第1位。三井不動産グループの「傾斜マンション」問題は、現在他の不動産会社のマンションに住んでいる住民や、これからマンションを購入しようとしている人たちにも深刻な影響を与え、寄ると触るとこの話で持ちきりである。
 『文春』は、問題の杭打ちをした旭化成建材の担当者(仮にX氏)一人の責任にして、この“事件”を矮小化しようとしていると批判している。
 X氏は、基礎工事の杭が短すぎて支持層と呼ばれる固い地盤に届いていないことを知っていながらデータを改ざんしたと言われているが、同社のヒアリングに対して彼は「支持層に到達したと思った」と抗弁しているそうだ。しかしベテラン杭打ち業者は「そんなことは有り得ない」と断言している。
 なぜなら、杭を打つためにドリルで掘削するのだが、支持層の固い地盤に到達すると大きな反発があるし、運転席に取り付けられた負荷を表すメーターに出るため、素人でも間違えようがないというのだ。
 また旭化成建材の堺正光常務がX氏は「ルーズな人間だなと。事務処理が苦手そうだなと感じた」と話したが、X氏がかつて10年ほど勤めていた会社の経営者はこう言っている。

 「本当に几帳面な大人しい子でね。(中略)
 責任を持って仕事をやる、手堅い子でしたよ。彼は現場で杭打ちを監視するだけじゃなくて、書類管理もすべてできましたし、旭化成建材へ移っても、問題なくやれていたはずです」

 『文春』のインタビューに対してこの経営者も、三井や旭化成はX氏一人に責任を被せ責任逃れをしていると思うと答えている。さらに『文春』によれば、問題の横浜の現場では、施工主の三井住友建設が発注していた杭が元々短かったという「事実」が発覚したという。
 16mではなく14mだったために適切な杭の配列ができなかった。再発注すると検査機関に書類を再提出し、1か月ほどかかってしまうため工期に間に合わないので、データ流用で処理しようとしたのではないかと、先の杭打ち業者が指摘している。
 やはりというか北海道で道が発注した工事で、旭化成建材が杭の工事データを流用していたと10月28日に発表したのである。これに関わったのは横浜とは別の担当者であった。
 下請けは元請けの顔色を窺い、孫請けは下請けの言うがままにやらざるを得ないのがこの業界の鉄の掟である。ここにメスを入れないかぎりこうした問題はこれからも必ず起きる。
 案の定、朝日新聞デジタル版の11月2日にこんな記事が載った。

 「杭データ偽装疑い計300件、50人関与か 旭化成建材
 旭化成建材が杭工事の施工データを偽装していた問題で、同社が過去10年間で杭を打った工事のうち約1割の約300件でデータ偽装の疑いがあることが、旭化成関係者への取材で分かった。傾いた横浜市のマンションの現場責任者を含め、数十人の現場責任者が関わっているという」

 やはり会社ぐるみの偽装だったのである。
 『現代』は「欠陥マンション」のその後を追跡しているが、聞くも涙ばかりである。
 『新潮』でも先に特集していたから、今回はマンション引き渡し前や後に欠陥が発覚したケースを見てみよう。
 引き渡し前にわかってしまった場合はどうなるのか。

 「昨年、業界を騒然とさせたのは、三菱地所レジデンスが手掛けた『ザ・パークハウスグラン南青山高樹町』。同社が高級住宅街に作る鳴り物入りの『億ション』だったが、欠陥が見つかったことで、住民への物件引き渡し直前に建物の解体と建て替えを決定。83戸の契約者に対して、『手付け金の返還』『迷惑料の支払い(物件価格の2割)』『制限付きの家賃負担』を実施するに至った。
 契約者からすれば『ある程度は納得』という対応だろうが、こうした事例は数少ない。
 たとえば昨年、柱の鉄筋不足が判明した積水ハウスの『グランドメゾン白金の杜ザ・タワー』では、施工途中だったため再施工で処理。同じく昨年、施工中のミスが発覚した三井不動産レジデンシャルの『パークタワー新川崎』も再施工だった。いずれも建て替えまでは行っていない」(『現代』)

 『現代』が取材した地方都市のあるマンションでは、引き渡し前の検査で問題が発覚すると、ディベロッパーと施工会社の争いが勃発し、両者の裁判闘争は今も続いていて、住民の不安も長期化する事態に陥っているという。
 まだまだこの問題は広がるに違いない。週刊誌の総力取材を期待したい。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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