昨年、高度な医療を提供する「特定機能病院」で相次いで起きた医療事故を受けて、11月5日、厚生労働省は事故防止の対策をまとめた。

 特定機能病院は、医療機関の役割分担を進めるために、1992年に行なわれた第2次医療法改正で制度化された病院群のひとつ。手術や化学治療など高度な医療を提供する能力があると厚生労働省が承認した施設で、次のような要件がある。

・手術や化学治療など高度な医療の提供、開発及び、評価のほか、研修を実施している。
・内科、神経科、小児科、外科、整形外科、脳神経外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、放射線科、歯科、麻酔科のうち10以上の診療科がある。
・地域の中小病院や診療所と連携し、患者の紹介率が30%以上ある。
・入院用のベッドが400床以上ある。
・医師、看護師、薬剤師、管理栄養士が一定数以上いる。
・集中治療室、無菌病室、医薬品情報管理室などの設備がある。

 以上のような条件をクリアした病院は、現在、大学病院を中心に全国に84施設(2015年11月現在)ある。承認されると診療報酬でも優遇され、一般的な病院に比べると入院料、技術料などで加算することができる。一定規模の医療機関が施設基準を整えて「特定機能病院」の承認を得ているのは、病院経営のうえでも重要な要素となっているからだ。

 しかし、今年6月、医療事故を起こした東京女子医大病院、群馬大学病院の2病院が、特定機能病院の承認を取り消される事態になっている。再発を防止するために、厚生労働省では特別チームをつくって立ち入り検査を実施。その結果、医療安全に積極的に取り組んでいなかったり、院内での事故報告の体制が整っていなかったりする病院が散見されたのだ。

 この報告を受け、今後は、特定機能病院に対して、「医療安全担当の専従の医師や薬剤師を配置した管理部門を設ける」「すべての死亡事例を管理部門に報告し、必要な検証を行なう」「医療安全の専門家、法律家など第三者が過半数を占める監査委員会をつくる」といったことが義務付けられた。改善策が守られない場合は、承認を取り消す可能性もあるという。

 だが、そうして特定機能病院の承認が取り消されると、最終的に困るのは高度な医療が受けられなくなる患者だろう。医療が複雑化するなかで、高度な医療を提供する特定機能病院には負荷がかかっているのも事実だ。

 どうしたら医療の安全を守れるのかは、医療者任せにせず、国民一人ひとりが考えたい問題だ。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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