2015年10月から11月にかけて、「ひとり親を救え!」という国の児童扶養手当の増額を目指す署名活動が話題となった。

 児童扶養手当は、父母の離婚や死別などで、父親または母親と一緒に暮らしていない子どもを養育している家庭に対して支給される。支給期間は、子どもが18歳になった年の年度末までとなっている。

 もともと児童扶養手当は、父親のいない母子家庭を対象に1961年に制定された制度だったが、多様化する家族関係に対応するために、2010年8月からは父子家庭も支給対象になった。

 支給額は、養育者の年収に応じて異なり、子どもが一人の場合は4万2000円~9910円まで10円刻みとなっている。子どもが複数いる場合は、2人目が5000円加算、3人目以降はひとりにつき3000円加算される(2015年現在)。

 しかし、これだけで子どもを養育していくのは不可能だ。とくに、日本は物価も高く、教育費の家庭負担も大きい。そのため、日本のひとり親家庭の就業率は諸外国に比べて高く、OECD平均が70.6%なのに対して、日本は母子家庭の81.6%、父子家庭の91.3%が働いているのだ。

 だが、同時にひとりで子育てもしなければならないため、非正規雇用の割合も多い。とくに女性の非正規率が高く、母子家庭の母の47.4%がパートやアルバイトで収入を得ているという状況だ。

 また、離婚時に養育費の取り決めをしても、途中で支払われなくなるケースも多く、養育費の支払いは2割程度にとどまっている。 その結果、ひとり親家庭の貧困率(所得が国民平均値の半分未満の人の割合)は54.6%と非常に高い割合を示しており、それが子どもへの貧困の連鎖を起こしている。

 児童扶養手当の設立目的は、親と離れて暮らす子どもを育てる家庭の生活の安定と自立を促し、子どもの福祉を図ることで、当初は一律の手当が支給されていた。しかし、小泉政権下の2002年に出された「骨太の方針」で社会保障費の削減が打ち出され、児童扶養手当についても大きな方針転換が行なわれた。

 この時、児童扶養手当は給付を縮小して、「母子家庭の母に対する就労支援」「養育費の支払いの確保」に重きを置くように舵が切られ、給付開始から5年たつと半減することが決められた。しかし、関係各所からの猛反発を受け、減額は凍結されたままになっている。

 前述したとおり、国が就労支援をするまでもなく、日本のひとり親家庭の就業率は諸外国に比べて高い。なかには複数の仕事を掛け持ちして、子どもの教育費を稼いでいる人もいるほどだ。これ以上、手当を削ることは人道的に許されることではないし、反対にひとり親家庭への給付は充実させる方向に政策転換するべきだろう。

 今回の署名活動を受けて、塩崎恭久厚労大臣は11月10日の衆院予算委員会で、児童扶養手当の2人目以降の支給額を増やすことを検討する考えを示している。

 これを機会に、ひとり親世帯を含む子育て世帯への給付のあり方が見直されるように期待したい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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