「申と書かれた赤い肌着を身に着けると病気が治る」
 「申年に赤い下着を着けると下(しも)の世話(寝たきり)にならない」
 「赤い下着をこっそりしまっておくと幸運が訪れる」

 これは、日本各地に古くから伝わる申年の赤い下着にまつわる伝承だ。申(サル)と「去る」をかけて、「病気が去る」「禍いが去る」など、申(猿)は幸せを運ぶ縁起物にも用いられる。

 今年は12年に一度の申年にあたっているため、大手下着メーカーなどが販売する縁起担ぎや健康祈願の赤い下着が話題となっている。とくに「申年の申の日」に、赤い下着をプレゼントすると縁起がよいとされており、デパートの下着売り場などでは、申の日カレンダーが添付された赤い下着が目につく。

 だが、なぜ、赤い下着は健康によいとされているのだろうか。それを紐解く鍵が、中国の歴史書『書経』に残された「飲食衣服、これ大薬なり」という言葉だ。

 当時、衣服を纏うことは、食事と同様に病気の治療や予防の一環と考えられており、衣類の染色には薬効のある草木が用いられていた。これは、皮膚からの呼吸が薬効を吸収するためで、薬を飲むことを「服用」というのは、この衣服から来ている。

 その衣服の染料のひとつが茜(あかね)で、だいだい色の根を煮込んだ染液に漬けると布が赤黄色に染まる。茜は、浄血や解熱、月経不順の治療など血液の循環を改善するための薬草で、染色した布は女性の腰巻や赤ちゃんの産着などに使われてきた。

 つまり、赤い下着を身に着けるのは単なる縁起担ぎではなく、自然界のエネルギーを取り入れるための先人たちの知恵だったのだ。

 現代は衣類の染色に化学染料が用いられることも多くなり、赤い下着を着けたからといって、本来の効能を期待できるかはわからない。だが、どんなに時が流れても、家族の健康を願う人々の気持ちは変わらない。

 申年の今年、赤い下着で家族の健康や幸せを祈るのもいいだろう。

 2016年が、読者の皆さんにとって健康で過ごせる1年になりますように。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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